ママはヒロイン、私は隠し子②
私が嫌いな『逃げ出した後妻は、氷の侯爵様の愛に絡め取られる』は、シークレットベビーを題材としたTL小説である。
ヒロインは18歳になった年に、若くして子爵家当主として奮闘する兄のため、10も歳上の侯爵に後妻として嫁いだ。
極上の美貌を持ちながらもピクリとも表情を動かさず、冷たい態度をとるヒーローは氷の侯爵様と呼ばれていた。幼なじみだった前妻を流行病で亡くし、忘れ形見の双子の兄弟を彼なりに愛でて育てている。
再婚などは考えたこともなかった侯爵だが、周囲の声と寂しそうな双子を見て、新たに妻を迎えることを決意した。その相手がヒロインだったのだ。
ヒーロー、ヴィルヘルム・カシア侯爵は子ども達の母親としての役割を後妻に求めた。
そこからはまあ、あるあるな子ども達を含めた交流から少しずつ距離を縮めていって愛を育むストーリーである。子ども達に接する時と、2人きりの時で違う表情を見せるヒロインに夢中になっていくヴィルヘルムの戸惑いは、何度読んでも最高だった。焦れったく進んでいく2人の関係は、続いていくものと思っていた。
忘れてはいけない。
これは、【シークレットベビー】を題材とした物語である。
このまま2人が名実ともに夫婦になっていくまでを描くことをメインとした物語ではない。
2人が、愛し合っていく中で、【シークレットベビー】が誕生すること、を前提とした物語なのである。
悲劇の始まりは、前妻の妹・シルヴィアが侯爵邸を訪れたことだった。
ヴィルヘルムにとっても幼なじみのシルヴィアは、社交シーズンを前に王都に出てきており、甥っ子に会うという名目で頻繁に侯爵邸に足を運んだ。断る理由もない侯爵家は、シルヴィアの訪問を喜んで受け入れた。
幼い頃から交流のあった両家。しかも前当主からも可愛がられていた前妻に良く似たその妹は皆に快く受け入れられる。
未だに邸内に味方の少ないヒロインを置き去りにして。
夫人のヒロインよりもシルヴィアを手厚くもてなし、積極的に気にかける使用人。
時間もお金も使ってシルヴィアを実の娘同然に可愛がる義両親。
実母の面影を求めてシルヴィアに懐く子ども達。
そして仕事が多忙になり不在がちになって頼れなくなった夫。
ヒロインは見る見るうちに心と体を弱らせていく。
窶れていくヒロインを見て喜んだのは他でもないシルヴィアだった。
彼女の初恋はヴィルヘルムで、前妻の妹という立場を利用して後妻の地位を狙っていた。その座を手に入れたヒロインへ敵意を向けることは、どうしようもないことだったのだろう。
シルヴィアは侯爵家の人々を味方につけ、あの手この手でヒロインを追いつめていった。
それでもヴィルヘルムと心を通わせていたヒロインは耐え忍んでいた。
けれどシルヴィアの魔の手が実家の子爵家にまで伸びていることを知り、侯爵家を出ることを決めるのだ。
あまり多くはない財産を手に逃げ出したヒロインは、遠く離れた土地で暮らし始めた。
慣れないながらも働き、何とか生活が軌道に乗りはじめた頃、自分がヴィルヘルムとの子どもを身篭っていることを知る。
そして誰にもそのことを明かさずに、ひっそりと娘を産み育てていくのだ。
私はこの作品が嫌いだと最初に言ったが、その理由はこの後の展開にある。
次の投稿は来週末になります。




