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NXΦZ  作者: Φ
2/16

意味深ゴリラ

 Φは都内でサラリーマンをしている。仕事はなんでもよかったが人により関わる仕事をしようと思った。仕事という名目であれば人と強制的に関わると思ったからだ。マジで人への興味がなかった学生時代に学生なりの雑巾で絞ったアイデアと決断でそう思ったから、こうして今ここでパソコンと呼ばれる凸凹を区画整理したうっすいボードに指を置いているのだ。そうやってかったいうっすいボードと同化しながら一日を過ごすのだ。もはや什器と化しながら時間を消費することは嫌ではなかった。なぜか人間と什器の隙間に挟まれながら人間以外にもシンパシーを感じられることに楽しさを感じていた。

  人間の世界にしか受け入れられていないΦは幽霊部員としての立ち位置でいいから、所属する場を求めていた。それはコールアンドレスポンスができない相手だっていい。コールアンドレスポンスならコールするマイクはこちらで持ってするとしてレスポンスは声を事前にパソコンに録音したものを流せばそれでいい。こうしてΦはふとした時に環境に同化して心を通わせる。人間世界にいる以上否応でも人間にシンパシーを感じることはあるが、それは自動的なものであり自由意志でやっているわけではない。無論人への愛は感じ得ない。会話もスキンシップもそれ以外のやりとりもこなしているだけだ。そんなマイク持ち什器人間(埃落とし前)は人間とよく接する環境だけに、少しばかり成長は感じながらうっとうしさを感じていた。

 ふと視界の下の方に黒い影が見えたようでΦは体を縮こめた。よく見ると床の埃が集まって大きくなったものだった。

 

「Φ〜」

 上司から声がかかった。 その人はΦが入社してからずっとXの上司をしている。

「13:00からお客さんと打ち合わせあるからZoomのURL発行して送っといて〜」

 分かりました、と什器。 Φはこの上司のことを慕いながらもどこか違和感を感じながら接していた。人間の格好をしているようで、人間じゃない気がする。まともなサラリーマンのような様態をしているが、ガリガリで黒目がふっとい。その目はまさしくドブに50年浸した黒糖キャンディのようだった。罰ゲームで食べるなら、誰しもその前に保険金5910万円をかけるだろう。

 

 ゲボを吐きそうになりながらΦは、かってえやつでカタカタやりながらお客さんに URLを送った。

 

 13:00までは少し時間があるため、ゲボ忍者はトイレへ向かった。小便をしながらまたふと黒糖キャンディのことを思い出し、上から催すのを必死で堪えた。これでキラキラしたらゲボ忍者試験に落ちるとこだったからだ。

 

 オフィスの席についたΦは、指置き凸凹ボードを開き、ミーティングが開始されるのを待った。

 

 

 

 コント 『統一感』

 

 13:00 ミーティング開始

 

「おはようございます」

「おはよう」株式会社イミシンゴリラの70代社長がさっき起きたような超絶か細い声で返事をした。

「今日は脇細(わきほそり)が移動中なので僕の方からしゃべらせて頂ければと思います。よろしくお願いします」

「よろしくね」

 

 社長はいつも画面をオフにして顔が見えない。いつもオンラインで話すので顔を見せたことはない。上司の脇細は移動中で話せないし画面もオフにしている。

「では、前回からの続きからですね。前回が御社のインスタのアカウントのテーマ設定という形でお話させて頂きました。で、今回もテーマ設定の続きをやっていきます。まず、最初に話すのがインスタの投稿についてですね。脇細さんイメージの写真の画面共有をお願いしてもいいですか。投稿については、インスタアカウントの統一感を出すため・・・」

 上司の脇細が写真を画面共有した。その写真はインスタどうこうといった写真ではなく、共有された写真は脇細がでっかい馬の歯を歯間ブラシで掃除をしているものだった。脇細は間違ったとすぐ気づいたのかすぐ写真の共有を止めた。

 Φは一瞬焦ったが話を続けた。

「すみません。改めてですね、統一感を出すためには・・・」

  また脇細が写真を共有する。今度もインスタ関連ではなく、脇細が椅子に座りおっきいチェロを抱えながら、弓の代わりに歯間ブラシで弾いている写真。手前に写る床には麻婆豆腐らしきもので”Happy Birthday!!!”と書かれている。

 

 Φは無視した。

「店の雰囲気がわかる写真をフィード投稿として投稿して・・・」

 また写真が入れ替わる。新郎新婦が晴れやかな衣装を着てケーキ入刀を歯間ブラシでおこなっている。

 とうとうΦはキレ出した。

「いや、さっきからえらい歯垢気にするなあ。歯間ブラシばっかで。歯間ブラシ業界ジジイにでも弱み握られとるんか。もういい」

 

 Φは深く息を吐き、5秒ぐらいして息を大きく吐いた。

「すみません、じゃあ気を取り直して。今の続きからですね、商品の写真をフィード投稿として投稿してスタッフの仲の良さだったり店舗のよい雰囲気を出したい時はストーリーズに投稿してもらってハイライトでプロフィールに固定してもらうと切り分けができるのとアカウント自体の見栄えが良くなるのでいいかと思います。で、それで・・・」

 

 脇細が写真共有した。 脇細がもう一人が組体操のサボテンをしている。下は脇細でスクワットの体勢できつそうな顔をしながら上の人間の足を支えている。その上でメガネ白髪白ロング髭おじいさんが両手を横に大きく広げながら笑顔で白い歯を見せている。手には歯間ブラシ。周りの余白には中華料理が並んでいる。

 

「あー、ダメだわ。むりむりむりむり」Φはさじを投げた。

「さっきから何なん?なんでそっちが写真に統一感出してるん。歯関連ばっか。劣化版老眼雪男みたいなやつに弱み握られてるんか知らんけどここで宣伝すな」

 

「Φさん、ちょっといいですか?」イミシンゴリラの長が言う。

「すみません、なんでしょうか」

「いや、さっきから聞いててね、すごく思っていたことがあるんですけど」

「はいはい」

「あの、最近ものすごく孤独でね、ホントに何をしても面白くなくてね。このまま自分がおかしくなってしまいそうで」

「重い、重い、何その相談。きっつ」

「寂しいよぉ〜」と長老ゴリラ。

「もうどいつもこいつも」Φは唸った。

「犬飼ったらいいじゃないっすか、犬、トイプードルとか」

「今日帰り飼う〜。でも名前つけらんないよ〜」と意味深哺乳類。

「はいはい、犬ね、名前つけましょうか、名前。はい、名前は臭魔歯(シューマッハ)ね」

「統一感・・・」意味深ゴリラが唸る。

「はいはい、もう終わりね、はい、あざした」

 

 Φはオンラインミーティングの終了ボタンを押した。

 はぁ〜、とため息のφ。脇細さんさすがに素行悪すぎるわ。




 18時までの仕事を終えたΦはそそくさと会社を離れ、人口爆発を集約した比喩のような電車に乗り、家へと向かったー。


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