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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

断罪されたくない悪役令嬢は、その身に甲冑を纏います〜 なぜ前世で殺された王子様の相棒になっていますの!?

作者: ガンタドール

 城下町の広場。


 数多くの民衆の目が集まる中、公爵令嬢――セルシア・オリエンテは絞首台の上へと連行されていた。


「いやッ! やめてッ! 私はなにもしていない!」


 そう訴えるが、セルシアを連行している兵士はまるでなにも聞こえていないかのような表情で無視をする。


 絞首台に上がりきると、そのすぐ隣にいた美青年――ロメリオ・アルバッハ。この国の第一王子が声を上げた。


「今ここに、聖女ミリア・ペネシスに執拗な嫌がらせ行為を働いたとして、セルシア・オリエンテを絞首刑に処すッ!」


 その声に、民衆はワアッ! と歓声ともいえるような声を上げる。


「なんで……? 私はなにもしていないッ! ただ生意気な平民に、この国の礼儀作法を教えてあげただけじゃない!」


 すると、王子はまるで汚物を見るかのようにセルシアを見る。


「礼儀作法……? ミリアに熱湯をかけたり、階段から突き落としたりすることがか?」


「ええ! どうせ聖女といってもただ運の良かった小娘でしょ!? 公爵令嬢の私がなにをしても――」


 そう言いかけた時、セルシアの胸に剣が突きつけられた。


「えっ――?」


 その剣は胸に深く刺さっており、まるで壊れた蛇口から水が出るように血が溢れ出てくる。


「不愉快だ。一刻も早く死んでくれ」


 かつて愛した王子に、そう告げられる。


 どうして? どうして私がこんな目に?


 そう絶望に駆られた瞬間、セルシアの頭の中にとある記憶が入ってきた。


 これは……走馬灯? 走馬灯って本当にあるのね……


 きっと、今までの記憶が――ん? 違う。これ走馬灯じゃない。これは――前世の記憶?


 かつて、日本という国で生きた少女の記憶。


 私は――神田恵理子。趣味は乙女ゲームをやることで、あれ? もしかしてここ、乙女ゲームの世界?


 そして私は……悪役令嬢のセルシア?



 え、もう断罪されてるじゃん。前世で見た小説の中だと、転生した主人公は断罪を避けるために――とか色々あったけど、もう断罪されてるじゃん。


 こんなのどうしようもなくない? 回避ルートもなにもないじゃん。


 そんな理不尽な気持ちが湧き上がってくるも、体からどんどん力が抜けてくる。


「く、クソゲー……」


 そうセルシアは言い残して、その生涯を終えた。









 はずだった。




 


「――ハッ!」


 目を覚ますと、そこは家の屋敷の天井だった。仰向けに、フカフカのベッドに寝っ転がっている。


「む、胸がッ」


 咄嗟に胸を抑えるが、そこに剣はない。


 それどころか、傷一つなかった。


「もしかして……」


 セルシアはあることを期待して、ベッドから飛び上がる。


 そして鏡の前に行くと、そこには幼い頃の自分がいた。


 綺麗な銀髪に、妖精といえるほど整った顔。まさに自他共に認める美少女だ。


 セルシアはプルプルと震える。



「いやっっっっったぁぁぁ!! 全部やり直しルートだぁぁぁぁ!」


 憧れの異世界! 憧れのゲーム! こんなに嬉しいことは人生(前世含む)で初めてだぁぁ!


 嬉しさのあまり、地団駄を踏む。


 すると、慌ただしい様子で扉から執事のセバスが入ってきた。


 白髪に白い髭を生やした、老齢の男性だ。


「お、お嬢様!? 大丈夫でございますか!?」


 そんなセバスの表情を見て、私は少しだけ恥ずかしくなった。


 ちょ、ちょっとはしゃぎすぎちゃったよね。


「大丈夫よセバス。それより、今は1人にしてくれないかしら?」


「は、はッ! 失礼いたしました」


 そう言ってセバスはそそくさと扉を閉める。


 セバスが出ていった後、私はホッとため息をついた。

 

「よ、よしっ! まずは落ち着こう……」


 そうしようとするが、心臓の高鳴りが抑えられない。


 ついさっき貫かれた心臓は、まるでなんともないように鼓動を上げていた。


「ふ、ふう。まず、これまでの人生はもういいわ」


 終わっちゃったものはしょうがないしね。それよりも、今……これからの人生を考えないと。


 

 まず、今のセルシアの年齢は8歳。後7年……15歳でこの国の王立魔法騎士学園に入学する予定だ。


 そして、そこからが問題。


 王立魔法学園で、私はこのゲームの主人公――ミリア・ペネシスを虐め、その結果ミリアに心を寄せる王子に断罪されてしまうのだ。


 


 ……うん、ありきたりな展開ね。あれ? もしかして楽勝なんじゃない?


 要は、私がミリアを虐めなければいい話。なんだ、簡単じゃん!


「よしッ! 第2……いや3かな? の人生こそ、めいいっぱい楽しむぞー!」


 そう言って、私は腕を天井に突き上げた。








 〜8年後〜



「いやッ! やめてッ! 私はなにもしていない!」


 絞首台の上で、セルシアは再び叫び声を上げていた。


「だまれッ! このクズがッ! 僕のミリアに酷いことをしやがって……!」


「殿下ぁ……怖いですぅ」


 そう言って、主人公――ミリアは、王子ロメリオの腕に抱きつく。


 

 こいつ……ッ! こいつこいつッ!


 ミリアはセルシアと同じ転生者だった。始めは転生者同士で仲良くなれたと思っていたけど、夜会で突然ミリアが裏切った。


 聖女に認められた瞬間、私に虐められていたと殿下に嘘の告発をしたのだ。


「ええいッ! さっさと縛り首にしてしまえッ! 顔も見たくない!」


「はあああ!? 私だってあんたの顔なんか見たくないわよ! ろくな証拠もなくこんなことしちゃってさ。あーあ! 知らないッ! その腹黒女と――」


 仲良くやってれば!? と叫ぼうとした瞬間、その胸に剣が突きつけられる。


「えっ――?」


 その剣は深く突き刺さっており、まるで壊れた蛇口のように血が流れ落ちてくる。


「不愉快だ。一刻も早く死んでくれ」


 かつて愛――してもいなかった王子に、そう告げられる。


 どうして? どうして私がこんな目に?


「く、クソゲー……」


 そう呟いて、セルシアはその生涯を終えた。






 ……はずだった。







「――ハッ!」


 目を覚ますと、そこは屋敷の天井だった。仰向けにベッドに寝っ転がっている。


 私は体を起こして、両手を交互に眺める。


 呆然としたまま、鏡の前に行く。そこには幼い頃の自分がいた。



 しばらく鏡の自分を眺めた後、あることを決心し、セバスの名前を叫んだ。

 


「セバスッ!!!」


 すると、セバスが慌ただしい様子で扉を開ける。


「ど、どうかなさいましたかお嬢様!?」


 そして、とあることを頼んだ。


「今すぐ、甲冑を用意しなさいッ!」


「え、えぇ!?」


 もういい。私は学園になんて通わない。


 冒険者になって、この世界を満喫してやるッ!






 〜1年後〜



 私はあれから家の騎士に稽古をつけてもらい、この1年でもう筆頭騎士を倒せるほどの力をつけた。


「せいッ!」


「ぐはっ!」


「よし、これで32人目……もっと根性のあるやつはいないの!?」


 全身に甲冑を身に纏い、そう声を上げる。


 私はもうセルシアじゃない。私はセルだッ!!


 公爵令嬢の肩書は捨てた。……いや、正確に言うと捨ててないけど、今の私は冒険者を目指す一介の美少女だ。


「おじょう――お坊ちゃま、もう騎士達はヘトヘトです。そろそろ休憩されてはいかかでしょうか?」


 そう言ってきたセバスを、私は鋭い眼光で睨む。


 すると、セバスはビシッと背筋を伸ばした。


「こんなしょうじょ――少年に負けるような騎士に休憩? そんなものはいらんッ! 立てッ! お前達! 立って剣を握れ!」


 すると、騎士達はふらふらになりながらも剣を持って立ち上がる。


 私はニイっと笑い、思わずその口を抑える。


 いけないいけない。鎧でバレないとはいえ、ずっとニヤニヤしていると変なクセがついちゃいそうだからね。


「その意気だッ! さあまとめてかかってこい!」




 私は、この世界で最強の冒険者になるッ!







 〜6年後〜



「セルシア、魔法騎士学園に入学しなさい」


 その額に汗を浮かばせながらも、現公爵であり私の父――バハムート・オリエンテがそう言った。


「なぜですかお父――父上! 私は15になったら冒険者になると言ったはずですッ!」


「お前がそんな男勝りになった理由も、いかなる時も甲冑を外さなくなった理由も私には分からんが――これは貴族のしきたりだ。例外は認めん」


 そう告げられるが、私は断固として反対する。


「嫌です!」


「ええいうるさいッ! お前はもう男として試験に登録してある! さっさと行って来いこのバカ娘!」



 お父様がそう叫ぶと、扉から複数の騎士が入ってきた。


 騎士達は私の腕を掴むと、馬車へと連行する。


「離せ離せッ!」


 無理矢理どかそうとも思ったけど、この騎士達はお父様の近衛だ。そんなことをすれば反逆罪に問われ、また絞首台に乗せられてしまう。


 私は抵抗できぬまま馬車に詰め込まれて、学園へと向かわされた。





 ◇◇◇



 試験会場の中。


「うおおおおおおおお!!!」


 私は全力で周りにある大木を切り刻んでいく。


「す、すごいですね学長……」


「あ、ああ。魔法で強化された大木がこうも簡単に切られるとは……これは学園の歴史上初めてのことではないのかの?」


 教師らしき人達が私を見てなにか言ってるけど、そんなことを気にしているような余裕がない。


 冒険者になるって言ったのにッ! いいよって言ってくれていたのにッ!


 きっと、私が冗談で言っているとでも思っていたんだろう。大人はみんな嘘つきだ。


 怒りを剣に込めて、大木を何回も何回も切断する。


 切断すると今度はさらに大きく硬い大木が生えてくるので、それも切断する。


「しかし、あの甲冑はなんでしょうか? なにか外せない理由があるとか言っていましたが……」


「きっと、過去に戦った傷でも残っているのだろう。男にとって顔の傷は勲章とはいえ、限度というものがあるからな……」


「わしは特例として甲冑の着用を認めたよ。才能のある若者が嫌がることを強要するなど、許せることではない」


「彼もきっと喜んでくれるでしょう」


 学園長、教頭、そして試験官は温かい目でセルシアを見る。


 彼等はいろいろと勘違いしながら、セルシアのことを理解していった。




「はあ、はあ、はあ」


 ちょっとはしゃぎすぎちゃったな。もう1本も生えてこないや。


 辺りを見回すと、切り倒された木がそこら中に転がっていた。


 他の受験生が恐る恐る遠巻きに私を見ている。


 ふんっ、今回こそは絶対に生き抜いてやるッ!


 そう息を荒げていると、周りにいた人の中から1人の男が私に近づいてきた。


 こっそりと、忍足で近づいてきている。


 なんだこいつ? 不意打ちするつもりかな?


 この数年鍛えまくった私にとっては、気配を消すことなど無意味である。


 一刀両断に切り捨ててくれよう!


 そう思って、剣を振りかぶり後ろを向く。


「ちょっ、待って待ってッ!」


「なッ――!?」


 その先にいたのは、この国の第一王子であり、私の人生を2回終わらせた――ロメリオ・アルバッハだった。


 ロメリオは私の顔……もとい甲冑を見ると、笑顔になってこう言った。



「君、僕の相棒になってくれないかい?」



「――――は?」

連載版書きました! 代表作、《天獄のエデン》も読んでくれると嬉しいです!

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