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殿下の愛は要りません。真実の愛はそこら辺に転がっていませんから。  作者: 和泉 凪紗


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4.いじめイベント?

 リチャード様とはどうやらお友達になったらしい。あれからアッシュ様も交えて何度か昼食を一緒にした。

 アッシュ様はわたしの経済状況をご存じなのか、材料代と言って十分なお金を渡してくれる。正直、王族に食べていただくものとなると食材にもかなり気を遣う。

 自分一人の昼食であれば簡単なものであったり、節約料理ですませられるのに……と思うと回数が増えてくるとさらに気が重くなった。それを察してくれるなんてアッシュ様はとても優しくて気遣いができる人だと思う。さすがリチャード様のお側にいることを許されている人物だわ……。

 そして、今日もリチャード様とアッシュ様との昼食。食べているのはもちろんわたしが作ったものだ。二人はおいしそうに食べてくれる。気は遣うけれど、おいしそうに食べてくれるのはやっぱり嬉しい。

 この二人が相手ではなかったらごくごく普通の昼休みの風景だろう。確かにわたしはお友達は欲しかった。けれど、こんなに高貴な人とお友達なんておかしい。

 おかげで普通のお友達はほとんどできていない……。


「なぁ、今度はわたしとクレアの二人で昼食はどうだ?」


 リチャード様は隙あらば二人で昼食を、と言ってくる。アッシュ様からも自由になりたいようだ。


「いえ、殿下は婚約者がいらっしゃるじゃないですか。そんな方と二人きりになるわけにはいきません」

「……リチャード」


 相変わらずちょっと面倒な人だなと思いつつ、わたしはリチャード様と呼び方を修正してお願いを拒否する。


「リチャード様。羽を伸ばしたいのは理解できますが、アッシュ様をお側から遠ざけるのはよくないのではないのですか?」

「そうですよ、殿下。二人きりなんて外聞が悪いです」

「アッシュは単純にクレアの作った料理を食べたいからだろう?」

「そうですけど、殿下もですよね? それに毒見役だって必要でしょう? まぁ、クレアは毒なんて入れないでしょうが、誰が混入させるかわかりませんからね」


 わたしは何度目かわからないやりとりをスルーしてリチャード様に提案する。


「わたしなどとよりも婚約者のアシュレイ様や他のご令嬢と昼食を一緒にされてはいかがですか? リチャード様はあまり女性と昼食をとられないのですよね。皆さんご一緒したいそうですよ」

「疲れるではないか……」

「婚約者や他の方とも親交を深めていただけなければ困ります。尊重しないといけない家の令嬢もいるのですよ」


 アッシュ様も援護射撃をしてくれる。わたしとしては他のご令嬢とも交流してもらわないと困るのだ。


「そうですよ。婚約者はともかく、他のご令嬢はお仕事だと思って……」

「……考えておく」


 そう。なぜわたしが他のご令嬢との昼食を勧めたかというと、ご令嬢にちくりと言われたからだ。「あなた、殿下と昼食をとっているのですって? 立場をわきまえずご一緒できるなんて、ほんとうにうらやましいですわ。治癒魔法の使い手は珍しいから殿下もご興味がおありなのかしら」などと似たようなことを何人もの人に言われている。

 できればいろんな人と昼食をとってわたしの存在を埋没させてほしい。



***

 そしてやっぱりこうなった……。

 綺麗なご令嬢に呼び出されたと思ったら数人に囲まれてしまっている。お友達になってくれるのかと淡い期待をしたが無駄だった。


「あなた、殿下にはアシュレイ様という婚約者がいるのを理解しているの? ちょっと近づきすぎではないかしら」

「いえ、わたしからは特にお誘いはしておりません……」


 わたしとしてもあまり誘われたくはないのに……。わたしの気持ちも察して欲しい。


「まぁ、殿下の方から声をかけられる特別な存在だとおっしゃりたいの?」

「いえ、そういうわけでは……」

「立場を弁えるべきではありませんか?」


 ご令嬢たちがわたしに文句を言いたくなる気持ちもわかる。普通ならばあこがれの王子様だ。お昼をご一緒できるのも学園に通っているうちだけだろう。わたしのような貧乏伯爵家の娘が独占していい存在ではない。

 いや、別にわたしも独占したいわけでもないのだけど……。


「殿下も皆さんと昼食をとろうとお考えでしたよ? ただ、人数が多いのと皆さん順番を気にされるのでどうすればいいかお悩みのようでした」

「そ、そうなんですの?」


 きっと嘘は言っていない。考えると言ってくれたのだから。

 これからどうやって納得してもらおうか考えていると遠くから声をかけられた。


「おい、どうしたんだ?」

「アッシュ様……。なんでもありません。少しお話ししていただけです。そうですよね?」


 声の主はアッシュ様だった。天の助け!

 わたしは大事にしたくないので、なんでもないとごまかした。アッシュ様が相手ではご令嬢たちも引き下がってくれるだろう。


「えぇ……」


 わたしを呼び出したご令嬢方は気まずそうに一目散に消えていった。アッシュ様は走って近づいてくる。


「ほんとうに大丈夫か?」

「大丈夫です。ちょっとお話をしていただけですから。それよりもどうかされました?」

「いや、一緒に畑にいかないかと思って」


 わたしたちは園芸部に入っている。アッシュ様は部活動に興味があったものの殿下のお側を離れないために一緒に生徒会に入っていた。忙しいにもかかわらず、友達ができないわたしを気遣ってくれたのか一緒に入部してくれたようだ。頻繁に顔を出すことはできないが時間を見つけては様子を見に来てくれる。


「わたしも行こうと思っていたんです。ぜひご一緒させてください」


 わたしたちは畑に向かう。花も育てているが、二人に食べてもらう昼食用に野菜を育てているのだ。もう少しで収穫できそうなところまで育っている、はずだった。

 

「そんな……」


 畑は荒らされていた。抜かれていたり、抜かれていないものも茎が折れてしまっている。


「動物の仕業、ではないですよね?」

「それはありえないだろう。ここは管理された学園の中だ。誰かの嫌がらせだろう」

「ひどいです……。せっかく育ててきたのに」


 わたしは抜かれてしまった野菜を埋め直す。傷んでしまった野菜を回復させられないか治癒魔法を試みるがうまくいかない。


「俺がやってみるよ」


 アッシュ様はそう言うと畑に魔法をかけた。野菜が少し回復する。


「すごいです! 回復しました!」

「いや、人間相手には使えないからやっぱりクレアはすごいよ。それに完璧に治ったわけじゃない。この魔法もクレアなら訓練すれば使えるようになると思うよ」

「そうでしょうか……。わたしは領地のためにもぜひ使えるようになりたいです」


 わたしの領地は農作物が主な収入源だ。人を癒す力はもちろんありがたいが、できれば植物を癒したり成長させたりする力がほしい。


「それにしても誰がこんな嫌がらせを……」

「さぁ。ストレスが溜まっている人が多いのかもしれませんね」

「本気でそう思っているのか? どうせ殿下がらみだろ?」


 おそらくそうだと思う。けれど、誰かを悪者にはしたくない。

 でも、畑や花壇を荒らされるのは困るので本当に止めて欲しい。


「殿下がもう少しいろんな方と交流してくれれば学園内も落ち着くと思います」


 わたしはやんわりとわたし以外を構ってほしいとお願いした。



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