1.プロローグ
いったいどうしてこうなってしまったの……。
貧乏伯爵令嬢であるわたしはこの学園に特待生として通っている。本来ならば名門中の名門であるこの学園に通えるようなお金は我が家にはない。ただでさえ場違いな存在なのにわたしは今、面倒なことに巻き込まれてしまっている。
豪華な会場に優美な音楽。綺麗に着飾った令嬢たち。遠くには色とりどりのおいしそうな料理もある。
今日は夏期休暇に入る前の学生たちへのねぎらいを込めたダンスパーティーだ。社交の練習も兼ねている。テストを終えたばかりの学生は皆開放感でいっぱいだ。
わたしは領地ではほとんど経験のなかったパーティーに不安を覚えつつも楽しみにしていた。周りの令嬢に比べたら地味なドレスかもしれない。
それでもわたしは大切な家族が用意してくれた素敵なドレスを着るのを楽しみにしていた。それなのに……。
わたしの目の前にはこの国の王子であるリチャード様。そしてそのリチャード様の婚約者である公爵令嬢のアシュレイ様もいる。
二人はとてもお似合いの美男美女。けれど、婚約者が並んでいるのに二人の間に甘い空気はない。むしろ張り詰めた空気が漂っている。
「アシュレイ、君との婚約は破棄する。私は真実の愛を見つけたのだ。このクレア嬢と結婚する」
「殿下、どういうおつもりですか?」
「へっ? どういうことですか?」
会場は驚きと困惑に包まれている。アシュレイ様は殿下が幼い頃からの婚約者。いきなりこんなところで婚約破棄の話になれば何故? と聞きたくなるだろう。あまりの展開にわたしも思わず間抜けな声をだしてしまった。
殿下はとんでもないことを言いだした。これってなにかの余興? 真実の愛ってなんですか?
特に庶民の間で流行っているよくある物語のような展開だ。庶民が王子様や貴族、お金持ちに見初められ、家が選んだ婚約者を捨てて結ばれる物語。現実にはそんなことありえないだろうけど、物語としては楽しい。けれど、自分に関係するとなると話は別だ。
しっかりと確認しなければ……。
「冗談ですよね?」
「冗談などではない」
「なにかの余興ですか?」
「余興のわけがないだろう。さぁ、きみの気持ちを聞かせてくれ」
待って。わたしはそんなこと望んでない!
わたしは今日のパーティーは楽しいものにはならないことを悟った。
そう、あれは遡ること約一年前の入学式。確かにわたしは運命的?な出会いをした。人が聞けば運命的に感じるかもしれない。でも……。