ブランコと弟と死亡フラグの危機
逃亡しきって庭に到着した。
父さんは追いかけては来なかった。まあ別にあの人も本気で息子に年齢隠そうとしたり、それをバラそうとした私に雷落とそうとは考えてないのでしょうね。
七歳が走るにしてはなかなかの距離を全速力で走っても軽い息切れ程度で済むのだからラーファのスペックって凄いと改めて思う。
なら頭の回転も良いはずなのだが、そこは私要素なのだろうか……。
「あーっ、走った走った……あっそうそう、ここが庭よ」
「家に入る前にチラッと見えたけどやっぱり広いね……にしても、疲れた。お父様ってあんなに怖いんだ」
「まああれは……ただ私達を揶揄ったに過ぎないから深く考える必要はないわよ」
「そう?」
「そっ」
だって、壺を割った時の父さんの怒りはアレと比べ物にならないぐらい恐ろしかった。思い出すだけでゾワっとする……まあでも念には念をだ。暫く家に入るのはやめておこう。うちに来て間もないロンを怖がらせてはいけない。
ここで暇を潰せるものはないだろうかと辺りを見渡すと恐らく庭師のものであろうそこに立て掛けてある板とロープがあったので取って来てロンに見せた。
「ここにロープ二本と端に穴が空いた木の板があります」
インドアにさせるのもルート突入のフラグになるかもしれないから折角の良い機会だし日本の外遊びを沢山教えてやろう。
「それらで何するの?」
「それはね……」
フッフッフと悪い笑みを浮かべながら庭師の工具箱を勝手に漁る私を心配するロン。
庭師の人にバレないのかと言われたらバレるかもしれないけどこの顔面偏差値カンストのラーファの顔で全力で媚びたら多分許してくれるはずさ。
電動ドリルを使って木の板の両端に穴を開ける。そうしたらこのロープの一本を木の太い枝にかけて、もう一本をその近くの木の枝にかける。そして穴の開いた木の板に結ぶと完成したのはそう、ブランコ!
「テッテレー! 手作りブランコの完成よー!」
昔おばあちゃんの家の裏山でこれを作ってよく遊んだものだ。弟が控えめに漕ぐのに痺れを切らした私が弟が乗ってるまま立ち乗り、即ち二人乗りで全力で漕いでったら枝が折れて私だけ縫うまでの怪我を負ったんだっけ……懐かしや。
私がドヤ顔で紹介したのに対してロンはあまりピンとこない表情をしていた。
「手作り、ブランコ……?」
「ええ! もしかして遊んだことないかしら?」
貴族様だもんな。手作りブランコどころか普通のブランコさえ遊ばなさそう。というかこの世界にブランコというもの自体無さそうだ。
なんだか貴族ってチェスとかでしか遊ばなさそうな適当なイメージしか出てこないもんなぁつまらんとまでは言わないが体が鈍りそうだ。
「まあ今から教えるからちょっと見てなさい。簡単よ」
ロンに手本を見せるようにブランコに乗り適当にブラブラと漕いでみた。
そうするとロンはわかりやすく目を輝かせてくれた。
「へえ! 面白そう!」
「そーそー! 高くにいくほどスリルがあって面白いのよ! そして私みたいにプロになると!」
高くなったところで私は重心を思っきし右に変えた。
そうすると二本ロープが絡まりに絡まって空中で私はグルグルと横回転する。
「なっ何それ⁉︎」
「こうやってね! グルングルン回れるのよ!」
小学生の頃よく友人達とこうやって遊んでたのを思い出す。楽しいけどよく考えると危ねえなこれ。
グルグル回ってロープが二重に絡まった後が最高だったな、もう酷いほど回りに回ってて……。
「あっ……!」
やべっ。
手が滑ったことにより現在落下中。まずいまずいこれはまた縫う怪我負っちゃうぞ! あれ地味に痛いから嫌なんだけど!
「お姉ちゃん‼︎」
「……っとぉっ!」
だがこの私にかかればナチュラルに着地。まるでヒーローのようだ。
折角カッコよく着地出来たんだ。最高にイケメンポーズを決めてやろう……。
「ヒーローさんじょっ……いっったあい!」
後に来るタイプの痛み程嫌なものはない、足がジンジンする。やっぱり流石に高すぎた。
ロンはというと私のそばに駆け寄ってきてアワアワしてる。可愛くて羽が生えてきそうだ。
「平気? 大丈夫……?」
「大丈夫よすぐ治るやつだから。これは私みたく油断しなければ安全に遊べる遊具だから」
「さっきプロって……」
「プロミス。プロでもミスするということよ。覚えときなさい」
「えっ……何それ?」
めちゃくちゃに間違った知識教えちゃったけどこの世界は日本語でも英語でもないから別に構わないだろう。
そういやこの世界の字が読めたとき感動したな。なんなら書く事だって出来た。日本語も英語も嫌いだったからもし読めなかったら詰んでましたね。
「まあまあ私のことは気にせずブランコやってみなさい」
「心配なんだけど……」
「そうよね私が悪かったわ……私が押してあげるから軽く漕いでみたらどう?」
「それなら……」
渋々といった形でブランコに乗ってくれたロンの背中を押した。
最初は小さく漕いでたけど慣れてくると大きく漕ぐようになって私の助けもいらないようになった。
なんだろう、この小さい子の自転車を手伝うような感覚……母性が生まれたなこれは。
「どう? 楽しいでしょ?」
「うん! 結構楽しいね、これ」
良かった、喜んでくれてる。
そんなロンを見てるといきなりロンは自身の体をひねった。も……もしや!
「ダメよロン! それは私みたくプロじゃないと……」
「あっ!」
くそ! 調子のって見せるんじゃなかった。
ブランコによって宙に投げ出されたロンを助けるべく私の上にロンが落ちるよう華麗にスライディングした。
「ゴフッ」
内臓死んだか? エグい音が鳴ったな……。
安否を聞こうと思ってすぐに立ち退いてくれたロンの方を見るとボロ泣きしていて私はギョッとした。
「お姉ちゃん! ごめんなさい! 僕が……僕が調子のってそんなことするから!」
「いーのよ、私がそんな危ないのを見せるのが悪かったわ。姉は弟のお手本にならなきゃなんないのに危ないこと見せたらダメよね」
「でも怪我してる……やっぱり僕はダメなんです。僕は……」
「こんなの擦り傷じゃないの……」
やべえまたロンがどんどんネガティブ思考に引き摺り込まれちゃってる! さっきと違ってかなり傷負ってるみたいだし、これ下手したら「僕のせいで……」でなって引きこもって世間知らずルート入っちゃう! 良くない!
「僕が悪いんです! だから……」
「わかったわ! ロン……貴方のせいにしましょう」
「はい……」
「なら責任を取るべく私の言うこと一つ聞きなさい」
「……わかりました」
宥める為に適当言ってしまったが私の話を聞いてくれるみたいだ。あとは慎重に言葉を選んでいってロンを説得させて、さっきみたいにロンを元気付けるだけだ。
「命令よ、貴方は自分を責めすぎず、自由の心を忘れない、芯を持った子に育ちなさい」
「え……」
そんなこと言われると思ってなかったと言いたげな顔だ。きっと、厳しい罰でも与えられるとでも思ったのだろう。
あれはロンが悪いところもあるけど私も非があったのだからそんなに抱え込まなくてもいいのにな……。
そういえばあの愚物が言ってたっけ、ロンは人の顔色ばかりを伺って頼まれたら断れないせいで何でも抱え込んでしまう性格だと。確かに彼はゲーム上で頼まれたから大変な委員長してるって言ってたし、体育祭イベでは体育委員の代行もやっていたっけ。本人は楽しそうにヒロインと会話してたけど、裏では都合の良い道具扱いされてたのもストーリーに書かれていたし、心の頼りのヒロインがいなかったらロンは一体どうなっているだろうか。そうさせない為にもこの命令は大事なものだ。
「たった、それだけ?」
「それだけって、自由っていうのは難しいものよ。人間、成長するたび自由って言葉を防ごうとするんだもの」
「私の婚約者もそうだわ。彼は立場上身動きが出来ないって事もあるけど、自分で自分の心を閉ざしていた。皆抱え込みすぎなのよ。もっと楽観的に生きてもバチも当たらないし、誰もどうこう言わないわ。寧ろ言ってきた奴はお姉ちゃんがぶっ飛ばしてあげるから遠慮なく言いなさい」
「ぶっとば……⁉︎」
この世界の子たちは自由を知らなさすぎ。若いうちに堪能しなきゃいけないのに。我慢我慢で生きてたら知らない間に損ばっかりした人生のまま終わってしまう。
うちの弟もそうだった。遠慮しまくって、そんなことばっかしてたから付け込まれていじめられて……そんでそいつら纏めてぶっ飛ばしたんだっけ。
あいつ、私がいなくなって大丈夫かな……私より逞しい身体になってきたけどやっぱり中身は変わらないし、関わるなとは念を押したけどその私がいなくなったからまたちょっかいかけに来る輩もいるかもしれない。
「ま、自由すぎるのは良くないけどね、第二王子がその例よ……だけどとても大事な事」
「大事……」
「ええ! 人生って本当に自分の判断で変わってくるものなんだから楽しんだもん勝ちなのよ! 硬く考えすぎず楽観的な方がいいのよ!」
綺麗な紫の大きな目から零れ落ちる涙を優しく拭って笑顔を見せる。
大丈夫だから、笑ってよ。ロンは笑顔が素敵なんだから。
「そう……わかりました。その命令聞き入れます」
納得してくれた……それだけで一気に肩の力が抜ける。
国語力ない私は思っている事を相手に伝えることがうまくできないから納得してくれた事に対して凄い安心感を覚えた。
それにこれでフラグへし折り大作戦双六で二マス進んだんじゃないかな。ロンは約束を破る子じゃないだろうしネガティブな思考もどんどん薄れていく事だろう。
「でも……お姉ちゃんはむしろ楽観的すぎるような」
「うへっ……そ、そう?」
「はい、聞いた話ですがこの国の第一王子との婚約を結んだのでしょう? なら七歳だとしてももう少し自覚を持った方が……」
芯を持った子に育てと言ったがここまでグサグサと私に言葉のナイフを刺してくるのかこの野郎!
それが六歳児からの言葉だと思うと余計に傷口が広がる。
で、でもいつかヴィネとの婚約は破棄する予定だから! 婚約してる自体もうフラグだから破棄しないといけないとは思ってるからやんちゃな言動を許して下さい!
「あー! あー! 何にも聞こえないー! てか私婚約結んだだけだから! 廃棄される可能性だって秘められてるわけだから!」
「ふふっ……お姉ちゃんって面白い。可愛いというか揶揄いやすいというか」
「なっ……!」
可愛いはお前だよブーメランめ。
でも揶揄いやすいは前世でも言われてたな。正直揶揄う方が好きだったんだけど、揶揄われもしてた。ちなみにあの愚か者が揶揄ってきた場合は遠慮なしにプロレス技を繰り出してたなぁ。
「お姉ちゃん。改めてありがとう」
「いーえ。弟の自信を作るのも姉の仕事ってもんよ!」
……うん、ロンは笑顔が最高に似合ってるよ。晴れ晴れしてて気持ち良さそうだ。
そんな想いも込めてえへん! と胸を張って頼もしい姉を見せたつもりだがきっとこれからもロンに世話をかける未来が見える……。
はっ! ダメだそれは……ロンルートに入っても弟離れ出来てなかったら何か良くないことが起きて死亡フラグが立ってしまうかもしれない。
なるべくロンに迷惑かけず、ロンの恋をぜひぜひ応援する形にしなければ……!
「……ちゃん。お姉ちゃん!」
「うあっ! なっ何?」
「ボーッとしてたけど何か考えてたの? ……今度は普通にするからブランコしてもいいか聞いてたんだけど」
「んーん、何でもない。ブランコ一緒にしよっか!」
「ちょっ、待って! お姉ちゃんの手当てが先!」
「んーなの唾つけとけば治るわよ!」
「また適当な事言って!」
文句言ってくるロンの手を引いてブランコの方まで走っていく。
極悪令嬢ラーファに文句言える程の子だ。きっとすぐに一人前になる。そのときには私は完全にモブとなってフラグもストーリーも触れられないような人物になってやろう。
でもこの限られた時間も楽しんでやりたいから好き勝手やってやる!




