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頑張れば何とかなるんだきっと

 ……やると言っても何から始めればいいんだろうか。

 私はあの後まだ具合が悪いと思われてそのまま寝かされた。そして次の日になりようやく自由の身となったので作戦を立てようとしている。

 婚約破棄……。それが一番な気がするがそれは難しい。なぜなら現状の私は七歳で結婚は親が決めたこと。そして相手は魔王だし、厄介払いに公爵令嬢の私と婚約させたのが王家側の本音なのだろうし、元々断るなんて選択肢はないのかもしれない。そもそも私がどうこう言えるのはもう少し大人になってからだ。

 とりあえずヴィネのことは後回しにしたほうがいいか。

 この先どうするか計画を立てなければ。

 まずラーファのキャラを思っきり変える。

 この件に関しては絶対できる。なぜなら中身がこの私だからだ。公爵令嬢からかけ離れた私だからだ。

 性格を変えることによって他のキャラの私への印象が変わることだろう。

 でも一応念の為、追放とか死刑とかになった場合も考えないとならない。

 追放の場合は一人で生きていけるような力をつけないと。自立か……前世の私の夢はニートだったから頑張らないとな。

 死刑の場合は……それは無理。諦めよう。諦めて死のう。来世は良い人に生まれたいと願おう。ギロチンとか痛そうだけどお偉いさんに逆らえない。私のメンタルはゼラチン少なめゼリーだからな。死刑にならないようにしよう。うん、時間はたんまりある。

 ヴィネルートの死は避けられない案件だからそっちもそうならないようにすれば良いか、頑張ろ。

 そんなぐたぐだでいいのかという考えが頭によぎるが、脳味噌甘栗なのでそれ以上の思考回路が働かない。つまり馬鹿だ。一応身体はラーファだから頭は良いはずなんだけど、中身が違うだけでここまで変わるものなのだろうか。微妙にショック。

 というか普通は乙女ゲー好きな人がトリップするもんじゃないの? 私ギャルゲー好きなんだけど? ギャルゲーなら誰に転生しても良かったってのに本当最悪。それも悪役。モブおじさんの方がまだ救いがあった。

 うーん……できれば他の悪役令嬢とヒロインと仲良くできたら、ハーレム作れたら、と考えるがそこまでいくのがハードゲーム。

 他の悪役令嬢は二人とも良い子なんだよな。それもラーファを極悪令嬢にするためなんだろうけど。

 極悪令嬢のラーファだが、今はただの罪なき美少女だ。作中のラーファは嫌いだけど彼女だって今からなら変わることだって可能なこと……中身私だし。


「……救ってやるかぁ、ラーファを、よ」

「……ラーファ様? ヴィネ様がお見えです……」

「うわっ! ……聞いてた?」

「……」


 ……目をそらされた。 

 これは……恥ずかしい。カッコよく片足を椅子に乗せて救ってやるか……キリッ。みたいに言ってたの聞かれてたとか死ぬんだけどいや待って死亡フラグどこに刺してるんだ私。


「……コホン、まあいいわ。ところでヴィネ様がお見えなのね。部屋まで呼んで頂戴」

「……かしこまりました。ついでにこのことも厳密にしておきます」

「……ありがとう」


 アイリに気を使わせてしまった……。

 申し訳ないアイリ、フォローを欠かさず入れていくところ流石優秀なメイド。

 アイリが見えなくなってしばらくするとノックの音が聞こえた。


「どうぞ」

「ありがとうございます。改めて僕はヴィネ・シルファーと申します」

「改めまして、私はラーファ・レリビアと申しますわ。先日はご迷惑をお掛けしまして申し訳ございません」

「いえ、お元気になられたようで何よりです」


 微笑みながらドレスの裾を軽く持ち上げて挨拶をし、椅子に座るよう促す。

 お嬢様慣れねえ。口元ひくついてたのバレてねえかな。うーーん鳥肌。

 それよりもヴィネと共に入ってきた金髪に桃色の瞳をして眼鏡をかけた執事服の少年はヴィネの側近兼攻略対象の一人、サウス・ブルシュだな。昨日ベッドで目を覚ましたときはいなかったがその前の挨拶でヴィネに仕えていたのを思い出す。

 彼のルートでのラーファとの関わりはヒロインがサウスを利用してヴィネに近づこうとしてると思ったラーファが散々嫌がらせするんだよね。そして最終的に追放または死刑ルート。そうだ、ラーファお前またしでかすんだったコノヤロウ……後に詳しく記述しよう。

 にしても二人とも攻略対象なだけあって美少年すぎる。

 ……腹立つ。前世からそうだけどイケメンみると腹立つ。だって顔が良いってだけで無条件に女の子にモテる世界の敵だ。羨ましいから妬ましいという非常に悲しいやつなんだけれど。


「ラーファ様、僕は貴方の婚約者になることになって本当に幸せです」

「……」


 ニコッと微笑んだ彼を見てさらにイラッとする。

 ……それは、イケメンであることの腹立たしさではない。

 愛想笑い、社交辞令、お世辞。ゲームをやったせいもあるが心の中ではなんとも思ってないのバレバレすぎる。そんなのが私に通用してると舐めてるその姿勢が腹立たしい。舐めてんのか。昨日は気が動転してそんなこと思ってる暇も無かったが、冷静になって彼を見るとそんな感情が湧き立ってくる。


「ありがとうございます。そう思っていただけて光栄ですわ。……サウス様、アイリ、私はヴィネ様と二人で話したいことがあるから席を外していただけないかしら」

「かしこまりました」

「かしこまりました」


 アイリとサウスに話しかけると二人はそれに従い、私の部屋を出た。


「二人で話したい事とはなんでしょう?」


 俺の突然の発言に首を傾げたヴィネは俺にそう問いかける。

 ほぼ初対面でそんな事言う資格ないかもしれないけれど、ゲームをやってたからなのかもしれない。彼には愛着がある。

 いくら魔王の力を授かった人だからといって彼だって人の子なのだ。演じ続けたら壊れてしまう。彼が魔王になって自分を抑えきれなかったのは無の時間を過ごしていた過去の経験あってこそのはず。

 それに、過去を変えれば私の死亡フラグだって無くなるかもしれない! 逃す手は無い!


「本音、は?」

「本音……?」

「本音はどうなのと聞いています。貴方と私、出会って今日で二日目。婚約できて嬉しいなんてそう思わないのでは?」


 まさかそんなこと言われるとでも思わなかったのだろう。先程の微笑みから一転して無表情な顔に戻った。

 恐らく戸惑っている。でも自分の感情に疎い彼はそれに気づけずに固まっている。

 まあ昨日はぶっ倒れるまではあんなにヴィネにべったりしてた奴がいきなりこんなこと言い出すもんな、驚くか。それは申し訳ない。

 けれどここははっきりさせておこう。彼の為に、そして私の為に。カッコよく言ってるけど正直重視してる方を割合で表すと二対八なんですよね……。


「私、ほぼ初対面の方からそう言われても対応に困るだけですもの」

「……何が言いたいのですか?」

「そうですわね、遠回しに言うのは癪に触るので直接言わせていただきます……今貴方はただの道具として使われてることは自覚はおありですか?」

「道具……」


 第一王子だというのに魔王の魔力を産まれた時に授かってしまったというだけで、王座は第二王子のものとなっている。そんな事さえも何も思わず受け入れて黙って周りのいう事を聞いているなんてただの道具と何の代わりもないじゃないか。

 誰も表上では何も言わなくたって魔王の子を厄介払いとして私のところに、レリビア家の婿として嫁がせるつもりでいるのはわかっている。レリビア家は名高い公爵家だから誰も不審に思わないし、いくら魔王の子といっても第一王子でもある彼を擦りつけるには都合がいい場所だろう。

 ヴィネが王座に興味がある人だとは思えない。けれど彼にだって選択肢を得る権利はある。自分の意思を持つ権利を。

 だからゆらゆらと彷徨っているその紅い瞳を真っ直ぐ見て声を張る。

 

「周りに流されて自分を失ってはいけません。ありのままに生きる。貴方にもその権利はありますわ」

「…………父上は、そんなものはいらないと言っていた。自分を捨てろ。お前は魔王の子なのだからと」


 彼の声色のトーンが一気に下がり敬語が抜け落ちる。これが恐らく素に近いものなのだろう。作中での彼もこのような雰囲気を漂わせていた。幼い頃は愛想を振りまくだけの元気はあったのだろうと先程までの彼を見て思う。でも、いつの日か疲れてしまい諦めてしまったのだ。

 自分を捨てろ。彼の父親、すなわちこの国の王は彼にそう言ったのだ。ゲームのシナリオにも書いてたねそんなこと。全く何て親だ。そんな奴が国王なんてね。

 そんなの律儀に聞く必要なんてないのに子供は親が絶対だと信じて疑わない。だからどんな事も従ってしまうのだ。良い意味でも、悪い意味でも。

 だからこそ誰かが背を押してやらないといけない。親という鎖から解放させないといけない。


「貴方は生まれてきたくて生まれてきたわけじゃない。そんなの私だって、貴方のお父様だってそうだわ。それに、魔王の力が欲しくて貰ったわけじゃないでしょう? それだけで理不尽だというのに、更に理不尽を加えてくるような人間の言うことなんて聞く必要なんてないわ。幾らそれが親だったとしても」

「理不尽……」

「そうよ理不尽なのよ。貴方の置かれている環境はあまりにも縛られすぎている」


 この世界は貴族社会なわけだし区別や差別が根強いのかもしれない。それでも抗わないと何も変わりやしない。それに第一王子なんて国の代表じゃないか。そんな彼が縛られるなんてあってはならない。

 ヴィネルートで魔王と化してしまった彼が一番最初に壊した建築物は王宮だった。彼は嫌だったから嘆いたのだ。解放されたかったから壊したのだ。今まではその気持ちを何処にも追いやることが出来なかったからずっと押さえ込んでいただけで、ずっと自分の知らないところで助けを呼んでいたのだろう。

 ゲームをやってた当時はそこまでの深追いはしなかったけれど、彼の王家への憎しみは見てとれた。国の破壊は自由になった彼の親に対する最初で最後の反抗だったのかもしれない。


「それに、貴方の弟達は自由気ままじゃないの。あれほど気を抜けとは言いませんが彼等を見習っても良いと思いますわ」

「う……先日は弟が迷惑をかけた……」

「いいえ、お気になさらず」


 彼の弟、第二王子には記憶が戻る前に会ったのだ。元々彼とラーファを婚約させようとしていたらしいが、第二王子は嫌々と駄々を捏ねて婚約者を作らない問題児だったせいで婚約には至らなかった。だから今、次の婚約相手としてラーファの元に第一王子のヴィネが回ってきたのだ。

 ちなみに奴は十五になっても婚約者を作らない。そんな濃厚設定盛り盛り第二王子は勿論攻略対象として登場するキャラクターだ。

 婚約者がいない次期王は大丈夫なのかといえば全然大丈夫じゃないのだが、第三王子がガチ拒否してることもあって今の所の王座は第二王子ということになっている。国の未来が心配だ。

 その第三王子も第三王子でフリーダムな性格をしている。この世界では会ったことはないが攻略対象の一人だから知っている。

 寧ろこんなに自由人の弟が二人もいて兄貴がここまで無欲に育ってしまったのが怪奇現象すぎる。確かにヴィネルート後半は自由人っぽさを出してきてはいたが、それでも足りないぐらいには無欲な子だと思う。


「弟、か……」


 作中の学園生活の中では関係が薄く描かれていたヴィネと弟達だが、幼少期時代は仲が良かったという。私の発言で弟達のことを思い出したのだろう。少しだが彼の表情が和らいだ。

 そんな彼等が引き離されたのも国王の命令だという。本当に救いようのない親だ。


「僕は、幸せになって良いのだろうか」

「勿論。誰にだってそれを掴み取る権利はあるわ」

「……そうか」


 ヴィネはそう言うと俯いて黙り込んだ。

 まあ急にあって二日目の婚約者にそんなこと言われて冷静に判断はできないのはわかる。私は助言しかできないから後はヴィネが決めることだ。

 まあ私の命の危機が掛かってるので是非とも頷いてもらいたいんですけどね!

 どれぐらい経ったのだろうか。私がマスカットティー二杯目を飲みきると同時にヴィネがようやく顔を上げた。

 

「……今度は心の底から思う。貴方が婚約者で良かった」

「へっ? そ、それは……何よりです?」


 ……微笑んだ。

 彼が微笑むのは滅多にない。作中でも後半ぐらいになってようやく笑ってくれるものなのに……これは本心として受け止めても良いのかもしれない。

 結局自由に生きてくれるのかという答えは聞けないまま終わりそうだがこの様子だと良い方向には向かってくれることだろう。

 

「礼を言おう」

「いえ、お礼を言われることはしてません」

「勇気を貰った」


 ヴィネはスッキリした表情で私にそう言うと一切触れられなかったマスカットティーに手を付けた。緩くなって旨みが無くなってるだろうに美味しい、と口にした。

 その後軽く会話をしてヴィネとの交流を終えた。

 ……ふぅ。きっと、これで良かったのだろう。ヴィネもその後はそのまま敬語を外していたし気楽そうにしていた。

 笑顔……可愛かったな。

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