攻略難易度が高いですわ 2
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ランベルト様の毛並みの色をした、白銀のドレスは、日常着るには少しきらびやかすぎる。
だから、紺色の落ち着いたドレスに、髪の毛に細い白銀のリボンを結んで取り入れてみる。
「どうしたら、もっと魅力的になれるのかしら……」
美貌を磨いてきた公爵令嬢ルティーナ。
けれど、ランベルト様に好きになってもらえなければ、何の意味があるだろう。
「お嬢様は、お美しいですよ。お嬢様に愛をささやかれて落ちない男のほうがおかしいのです。見る目がないですね。王太子殿下も辺境伯も」
「……友人枠ではなく、ランベルト様にふさわしくなりたいの」
王太子殿下は、追放されなかったものの、王位継承権剥奪となった。
聖女は、北の塔に謹慎となって、平和のために祈っているという。
「そのうち、もう一騒動ありそうよね……」
「お嬢様を今度こそお守りいたします」
「ふふ、ありがとう」
侍女のマリンに、髪の毛を編み込んでもらう。
こんなに派手な色よりも、聖女のように淡いピンクのかわいい色がお好きかしら。
金の瞳も、少し鋭すぎると思うの。
鏡の前に座っている私は、前世の感覚で言えば、間違いなく絶世の美女に違いない。
でも、どんな美女でも、ランベルト様の好みでなければ意味がないわ……。
「はぁ……」
「王妃教育を受けていらっしゃるときは、すべてあきらめているような印象でしたのに、すっかり恋する乙女ですね」
「マリン……。そうね、推しているわ」
「推し?」
「そう、恋よりも強く、愛よりも激しく、ランベルト様を推しているの」
たくさんのキャラクターを推してきたけれど、ランベルト様だけは、同担拒否なの。特別なの。
「ランベルト様は、本当にもう一度来てくださるかしら……」
そういえば、王都とランベルト様。
何かが、引っかかるのよね……。
基本的には、ランベルト様とお会いするためには、全ルートクリア後に、バッドエンドを通って、隠しルートに入るしかない。
悪役令嬢ルティーナの断罪後、しばらくして、ヒロインは、正体不明の黒づくめの集団に街中で襲われる。
本当であれば、1番好感度が高いヒーローに助け出されるイベントだけれど、バッドエンド直前で、誰も助けに来ないと、ゲームオーバーになってしまう。
けれど、すべてのルートをクリアしているときだけ、ランベルト様が助けに現れるのだ。
「あっ、ああっ!!」
「どうなさったのですか、お嬢様!?」
「は、はじめてのランベルト様スチル!!」
すべてのルートをクリアしたあとのバッドエンド直前、隠しルートがあることを告げるように、王都に現れるランベルト様。
今、ランベルト様は王都にいらっしゃる!!
「時期もほとんど同じだわ!! 行かなくては!!」
「えっ、お嬢様。危険ですので外出は禁止になっております」
「っ、行かなくては、ランベルト様のファーストスチル!!」
私は慌ててお忍び用のワンピースへと着替える。
ランベルト様の色合いではないけれど、仕方がない。
髪に結ばれた白銀のつややかなリボンだけが、ランベルト様の色だ。
ヒロインがすでにいないのだから、イベントが起こらない可能性も高いのに、そのことにすら気がつかず、マリンと護衛が慌ててついてくるのを振り切る勢いで、私は馬車へと飛び乗ったのだった。




