攻略難易度が高いですわ 1
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爽やかな朝の目覚め。
いつものベッド、いつもの朝。
でも、目を覚ませば、目の前には薄くて艶やかな布で囲われた天蓋。
どう考えても、いつものベッドではない。
「……ん、私?」
状況が飲み込めずにキョロキョロしていると、「起きたか」と低い声がした。
勢いよく起き上がりすぎて、クラリとめまいとともにベッドから落ちそうになる。
「きゃ!」
「危ない!」
トスッと軽く当たった、ふわふわの感触。
たぶん、服の下にはモフモフが隠されているのだろう。
間違いない。推しと出会えたのは、夢ではなかったのだわ!
(うっ、うわあああ!!)
今、私は、推しの! 推しの腕の中にいる!
昨日のこと、一週間前のこと、急に理解した私は、思わずその腕の中で震えた。
「あ、すまなかった……。大丈夫か?」
そっと離れていく腕が名残惜しい……。
でも、たぶんこのまま抱きしめられていたら、心臓が口から飛び出してしまいそうだから。
赤くなってしまった頬を両手で隠して、顔を上げる。
なぜか、ランベルト様は空色の瞳をわかりやすくそらした。
「ランベルト様、ありがとうございます」
「いや……。昨日、急に具合が悪くなったのは、無理をしていたせいだろう? どう考えても、こんな姿の人間と、友人になるなんて無謀にもほどがある」
「えっ?」
あれ? 昨日、婚約者として吟味してほしいと、友人になってほしいときちんとお伝えしたわよね?
まったく伝わっていないどころか、ますます距離を感じるわ?
「あの……。ところで、ずっとここにいてくださったのですか?」
「――――心配で。ウィリアス公爵が、ついていてほしいという言葉に甘えてしまった。気分が悪かっただろう、すぐに」
「うれしいですわ?」
驚いてしまったけれど、こんな風に誰かに心配されることがうれしくないはずがない。
それが、推しだなんて……。え? 幸せすぎるのだけれど、今日が世界の終わりの日なのかしら?
「顔がまだ赤い。ゆっくり休んでいた方がいいだろう」
「ありがとう、ございます……」
でも、これはランベルト様が素敵すぎるせいで……。
「いや……。すまないが、用がある。これで失礼する」
「……っ、ランベルト様!!」
私は、こちらを振り向きもせずに出て行こうとするランベルト様に駆け寄った。
「次は……。次はいつお会いできますか?」
ここで、次の約束を取り付けておかなければ、もうお会いできない気がした。
どうしてなのだろう。私のような、悪役令嬢では、やっぱり……。
「なぜ、泣きそうな顔をしているんだ」
「え?」
「俺を前にしても怖がることもなく、王太子殿下に理不尽なことをされても毅然としていたのに、なぜ今そんな顔を……」
泣きそうな顔なんて、していたかしら?
それはわからないけれど、少なくともランベルト様に会えないなら、私は……。
「ルティーナ嬢が嫌でないなら、要件を終えたらもう一度寄らせてもらおう」
「ほ、本当に?」
「ああ、友人だからな?」
たぶん、ランベルト様は笑った。
狼みたいな顔をされているから、ハッキリとはわからなかったけれど……。
去って行く背中。でも、ランベルト様は、今度は一度だけ振り返って手を振ってくださった。
――――でも、友人ですのね……。
ランベルト様ともう一度お会いできることは、この上なくうれしい。
けれど、あまりの攻略難易度の高さ。
公爵令嬢として箱入り娘だった今世も、もちろん推しさえいれば幸せだった前世でも、恋愛偏差値の低い私は、ここまで必死に頑張ってみたもののすでに限界を感じていたのだった。
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