推しへの愛を形にしますわ 3
結局のところ、そこから先、ランベルト様と私は、なぜかゼロ距離で、スチルは泣く泣く諦めて、二人一緒の肖像画を描いてもらうことになった。
「でも、特別な服装をお召しになったランベルト様のスチルが……」
お揃いの衣装で、仲良く並んで肖像画を描いてもらうことには、とても心浮き立つけれど私は実物のスチルが欲しいのだ。
「ほら、ルティーナ嬢?」
「へっ!?」
間の抜けた声を出した私の唇に当てられた、ヒンヤリした鼻先。
途端に私の体から、無意識にあふれてしまったのは、黒いダイヤモンドのように輝く魔力の光だ。
その七色にキラキラ輝く黒い魔力が、ランベルト様を取り囲むと、美しい白銀の狼の顔が、これもまた美しすぎる美貌の男性へと変わる。
感情の高ぶりと愛しい気持ちがあふれるとともに、無意識に使ってしまった魔法は、私とランベルト様の姿を変えてしまった。
「……おや、この姿になるなんて予想外だが」
「……モフモフが」
バサリと私を包みこむように音を立てたランベルト様のマント。
髪の毛や瞳の色だけでなく、背も、胸も、手のひらすら、元の世界の姿形に変わってしまった私は、ランベルト様にスッポリ包み込まれるように隠された。
「いつものことだが、なぜ残念そうなんだ」
「どんな姿でも好きですわ」
「……そうだな。誤魔化された気もするが、俺もどんな君のことも好きだ」
瞳の色は変わらないまま、少しだけ呆れたように微笑んだランベルト様は、この世のものとは思えないくらい麗しい。
もしかすると、結局見ることが出来なかったエンディングのランベルト様は、こんなふうに……。
(うぅ、それにしても距離が近いですわ。胸が苦しいですわ。それにやっぱり、こんなふうに意地悪げには笑わなかったに違いないです)
チラリと見上げた私の頬は、きっと真っ赤に染まっているに違いない。
「だが、魔力が枯渇して眠り込まれても困る」
私の魔力を制御しながら、器用にも落ちてきた口づけに、吹雪のように私たちを包み込んだランベルト様の魔力。
姿を元に戻したけれど、ますます染まったであろう私の頬。
姿が元に戻ると同時に、マントはどけられたけれど、こんな顔のまま、肖像画が描かれてしまうなんて、やっぱり納得いかない。
「ああ、納得いかないな」
「えっ?」
それなのに、なぜか不満げな声を漏らしたのは、ランベルト様のほうだった。
「何が納得いかないのですか?」
「……君のこんな顔を見るのが、俺だけでないこと」
「えっ」
「……でも良いか、ルティーナ嬢だけの絵を描いてもらい、執務室の奥に飾って、俺一人が愛でるのも悪くない」
「ええぇ」
困惑している私たちを凝視しながら、なぜかものすごい勢いで、絵を描き続ける若手画家。
そう、この世界では無名の、少し変わった絵を描く画家が、姿を変える私たちを描いた連作。
それが、ビルヘルム王国中で、話題を攫うまであと少し。
***
(そして……。うふふ)
後日、話題になった連作とは別に、私の元に届いた一枚の絵画。
若手画家の彼のことは、資金も人脈も、権力もすべてを惜しみなく使って応援していこうと心に決める。
立派な額縁に入れた、夢にまで見たモフモフが素晴らしいランベルト様の絵画。
わかっている画家は、秘密裏に私宛にランベルト様の絵画を届けてくれたのだ。
(うふふ、シークレットスチル!!)
ランベルト様が、私を呼んでいる声が聞こえる。
早くこのスチルをどこかに隠さなければ。
そのあと、ランベルト様に見つかってしまったけれど、スチルは背中に隠して誤魔化して、何とかその場を乗り切り、誰にも見られないように、私室の奥にそっと飾ったのは言うまでもない。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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