推しへの愛を形にしますわ 2
***
そして待ちに待った翌朝。
「それでは、ルティーナ嬢。またあとで」
「えっ……」
「さあ、ルティーナ様は、こちらです」
なぜか、やる気満々の侍女マリンに飾り立てられる。
「えっと、私が着飾っても……」
そう、今回お願いするのは、もちろんランベルト様のスチルなのだ。
私が着飾ってどうするのだろう。
「実は、こちらのドレスは、お揃いですよ?」
「えっ」
「今朝届いたドレスです」
「こっ、公式お揃いコーデ!!」
私が着飾る必要はないけれど、よく見れば鎖骨のあたりに飾られた淡いブルーの薔薇は、ランベルト様の瞳の色で、白いドレスを美しく飾っている。
腰元のリボンも、フリルも、さらにはさりげなくランベルト様カラーの刺繍もすべてがよくわかっている仕上がりだ。
「ふふ。辺境伯様にご相談を受けましたので、私、推しカプコーデについて真剣に検討してみました。その案が採用され、誇らしい限りです」
楽しそうなマリンに、私まで楽しい気分になる。
「素敵!!」
「お喜びいただけて幸いです」
さすが、先日いただいた指輪も、そしてブレスレットもドレスに合わせて誂えたかのようで、本当に素晴らしい仕上がりだ。
「さあ、参りましょう!」
そして開けた扉の前で、私は完全に固まった。
ランベルト様の首元は、モフモフした印象の飾り、白い服には金の縁飾り。
「スペシャルコーデな推しが目の前に!」
「すぺしゃるこーでとは?」
「とってもお似合いということですわ!!」
興奮しながらそのことを伝えると、ランベルト様が小さく笑った。
狼頭の口元からチラリとのぞいた牙が、キラリと輝く。
私は、無言のまま、ランベルト様の横をすり抜けて、私たちの様子を緊張して見守っていた若手画家に駆け寄る。
「ほら! 素晴らしいですわ! 優しくこちらを見つめながら、慈愛を込めて微笑んだその笑顔をどうか絵画に閉じ込めてくださいませ!」
「えっ、あの!?」
若手画家は、緊張したのか青ざめていたけれど、ランベルト様の微笑みに興奮してしまった私は、そのことに配慮する余裕はなかった。
「ほら! 素敵でしょう!? あなたなら、あの毛並みも、瞳の輝きも、素晴らしいスタイルも、すべて表現できると信じておりますわ!」
「こ、光栄です?」
しかし、興奮して近づきすぎただろうか。
そっと、後ろから抱きしめられて、距離を取らされる。
「ルティーナ嬢は、やはりこの画家に心惹かれているようだ」
「えっ?」
「俺の気も知らないで。あとで覚悟しておくと良い」
少し低い声は、けれど私の脳みそをシビれさせてしまうみたいに甘美だ。
声まで素晴らしいなんて、私の推しは本当に。
「うう、ランベルト様が尊すぎて、好きすぎますわ!」
「は?」
慌てて距離をとったランベルト様。
振り返れば、毛並みでわからないはずの頬が、赤く染まっているように思えるのだった。
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