日常が崩れた日 ランベルトside
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優しい母と穏やかだが誰よりも強く頼もしい父。
父と母は大恋愛の末に結婚し、とても仲がよい夫婦だった。
そして、たった一人の子どもである俺のことをとても大切にしてくれた。
そんな幸せな毎日、そんなとき、その魔法使いは現れた。
「――――未来を視て差し上げましょう」
赤銅色の瞳は、未来視を持つことを示す。
未来を視る力を持つ魔法使いは、その地位を国に保護されている。
だから、俺の両親も当たり前のように、その魔法使いを招き入れた。
「ああ、いくつもの未来をお持ちですね? けれど、どの未来でも、人の姿は失われるでしょう」
「それはいったい?」
珍しく震えた母の声が聞こえ、俺は膝の上で母にすがりついた。
魔法使いの言葉は続く。
「あなた様が、この国に嫁ぐことが許されたのは、利用価値があるからです。王太子殿下と、ランベルト様が同い年に生まれるとき、狼の姿はより王家の血を強く引いた者に引き継がれるのですから」
「…………狼の姿は、王家を継ぐ者にのみ現れるはずです」
「その姿だけを他者に移し、力のみを手に入れようと、隣国の王妃は禁忌に手を染めました」
「なぜ、そのことを私に……?」
魔法使いの笑い声が聞こえた。
その笑い声は、どこか無機質で、仄暗く、幼い俺を怯えさせるには十分だった。
「黒髪の女神は、狼に姿を変えたランベルト様の未来にだけ現れる可能性があるからです」
「…………狼のような姿にならない方法はないの」
「残念ながら、ランベルト様と王太子殿下が同じ年に生まれたときに、すでに魔法は発動されました。狼の姿になるのは、どの未来でも確定事項です。しかし、身代わりになるだけで力を得ることができないのでは、ランベルト様の未来には暗雲しかないでしょう。……その未来を変えたいのなら、魔力をすべて捧げてください」
「――――そう、わかったわ。ランベルト、大事な話があるから、少し席を外していなさい」
「はい、母上」
その後、侍女に連れられて部屋を後にした俺は、魔法使いと母がどんな話をしたのか知らない。
けれど、その後に起こったできごとから考えれば、あの時すでに母はすべてを理解し、決意していたのだろう。
その日、遅くまで父と母は何かを話していた。
そして翌日、俺を呼び出した母は、空色のブレスレットを渡しながら微笑んだ。
「ランベルト、このブレスレットは、隣国の王家に伝わるものなの。あなたは、これから先、何があってもこの空色の石に魔力を込め続けなさい」
「母上、なぜですか?」
「あなたが、何よりも守りたいものができたとき、その魔力が役に立つわ。領地よりも、なによりも、大切な人が現れたときに、これを渡しなさい」
「……はい」
「あなたが、このブレスレットを渡したいと思える人は、いつかきっと現れるわ。そして、きっとあなたは幸せになる」
無邪気にそのブレスレットを受け取った翌日、俺の姿は狼に似たそれになり、父と母は、創りあげられた魔法の一部を歪めるために、魔力をすべて使い果たして命を失った。
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