守られるだけなんて嫌ですの 5
「あ、ところで、先ほどの話ですが……」
「――――君は、表舞台に立つ気はあるか?」
「え? 表舞台……ですか?」
ルティーナは、王妃教育を受け、もちろん表舞台に立つために生きてきた。
だから、その知識や努力を生かせば、表舞台に立つことだって造作もないだろう。
「……やっぱり、黒い髪と瞳のせいですか?」
「そうだな……。黒い髪と瞳をした女神が、俺の姿を狼にした。すでに、先ほどの情報は隣国にも伝わったに違いない」
ビルヘルム王国ではなく、隣国に?
私の表情を見て、ランベルト様はため息をついた。
「神殿の中で、黒い髪の女神の絵画を見ただろうか」
「見ましたわ……。狼と一緒にいる黒髪の女神を」
「――――王都で見たことはあるか?」
「……ありませんわ」
ランベルト様が、ビルヘルム王家よりも隣国を気にした理由。
そして、王都の神殿では見たことがない黒髪の女神。
数世代ごとに、狼のような姿になるという、隣国の王家。
(どういうことですの? そんな話、ゲームには出てきませんでしたわ?)
けれど、もしも黒髪の女神が、王国の神ではなく、隣国の神なのだとしたら?
サーシェス辺境伯家は、長い歴史の中では、隣国に属していた時期もある。
だから、もしかしたら、王都の神殿とは明らかに違う造りをした神殿は、隣国の建築様式なのかもしれない。
「――――隣国」
「ああ。君の姿が伝われば、確実に何かしらの反応があるだろう。俺の従兄弟、現王太子殿下からは確実に」
隣国の姫が嫁いできた理由を考えるのが少し恐ろしい。
もし、隣国の姫が産んだ子どもに、はじめから狼の姿を身代わりにさせるつもりだったのだとしたら……。
「あ、あの……。ランベルト様のお母様は、身代わりの件をご存じだったのですか?」
「ああ、俺の両親は、相思相愛、周囲の反対を押し切っての大恋愛の末に結婚した。俺が、この姿になっただけではなく、力も受け継ぐことができたのは、強い魔力を持った母のおかげだ」
「――――ランベルト様!」
その先を、聞きたくないと思った。
ランベルト様は、幼い頃にサーシェス辺境伯となった。
ガーランド・サーシェス辺境伯代行が、ランベルト様が大人になるまで、サーシェス領を守ってきたのだ。
だから、私の予想は、きっと間違っていないに違いない。
でも、その前に私は、ランベルト様を強く抱きしめる。
「きっと、つらい話……ですよね」
「ああ、そうだな。あの頃のことは、君と出会ってから、ようやく振り返ることができるようになった」
「……話すことはできそうですか?」
「――――楽しい話ではない。だが、聞いてくれるか?」
ランベルト様に、つらいことを思い出させたくはない。
それでも、聞かなければ、きっと私たちは前に進めない。
本当の意味での、ハッピーエンドを迎えることなんてできない。
「どうか、話してくださいませんか?」
そっと、私のことを抱きしめ返したランベルト様は、フワフワした感触頬を私の首元に埋めた。
ゲームの中では、ただの設定でしかないだろうできごと。
けれど、それはすべて、ランベルト様が実際に経験してきたことなのだ。
しばらく、無言のまま私たちは抱き合っていた。
ランベルト様が、少しかすれた声で、その時の話を始めるまで。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




