守られるだけなんて嫌ですの 4
狼の姿、孤高の運命、そして誰よりも強い力を得る、それは隣国の王族に伝わる古き盟約。
王家の血を継ぐ者は、数世代に一度、その力を得る代わりに、狼に似た姿になる。
「隣国の王族?」
絵本を読みながら、私はポツリとつぶやいた。
その絵本は、とても古いものだ。
ページを破ったりしないように、そっとめくる。
「……ランベルト様は、隣国の王族の血を継いでいる」
それは、たしかにランベルト・サーシェスの設定資料に記載されていた。
ランベルト様のお母様は、隣国の姫だから。
「……でも、ランベルト様は、王太子ではないわ? それならば、どうして……」
人差し指を、無意識にカプリとかじる。
それにしても、本当にこれは絵本なのかしら。
その時、絵本の上に影が差す。
「……ルティーナ嬢」
「ランベルト様……。ランベルト様は、隣国の王家の血を継いでいるから、その姿なのですか?」
「ストレートだな」
「ご気分を害しましたか?」
「いや、君に言われるのなら、少しも嫌な気分はしないな」
さらりとランベルト様の指で掻き上げられたおくれ毛。そのまま、耳元でささやかれる、私たち二人だけの会話。
「だって、君は俺のこの姿が好きだろう?」
「っ、……ものすごく、好きですわ!?」
「……だが、俺にとっては、何度鏡で見ても、自分だとは思えない姿だ」
たしかに、ランベルト様のこの姿を先に知って、本当に大好きになってしまった私と違って、元の姿があるわけで……。
「あ、あの? 絵本によると、生まれたときから、その姿になるはずでは?」
それは、古の盟約であり呪いであり、祝福だ。
狼の姿で生まれた王族は、王位継承者として認められるし、強い力を持つという。
「…………俺は、身代わりだ」
つい、絵本を落としてしまった。
(身代わりって……。この姿になるはずだった人の、身代わりになったというですの?)
「だが、姿だけでなく、魔力と力まで俺のものになってしまったのは、隣国にとって誤算だっただろうな」
「…………そんなの」
もし、生まれてからずっと同じ姿なら、それは当たり前だと思う。
でも、物心ついたあとに、姿が変わってしまったら?
「……そんなの、ひどいです」
「そうだな、心の奥底で納得などできていなかった。だが……」
ランベルト様は、吹っ切れたように微笑んだ。
私には、たしかに微笑んでいるとわかった。
「もし、俺が元の姿だったら、君は婚約の申し込みをしてくれただろうか?」
「……え?」
そのまま、二人の間に静寂が訪れた。
ランベルト様は、本当に素敵なお姿をしていた。
でも、あんな手紙を送ることができたかといえば……。
「ないですわ」
「そうか、今こそこの姿に感謝できる」
「……ランベルト様こそ、その姿でなければ、婚約者がいたに違いありませんわ」
「……そうか。そんな、膨れた頬も可愛らしいな」
満面の笑み。とがった牙が、キラリと光る。
ああ、この姿が本当に。
「どんな姿でも、好きですわ?」
「俺もだ」
大きな悲しみも、捉え方によって、こんな幸せに変わる。
にっこり笑って、ランベルト様にしがみついた。
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