守られるだけなんて嫌ですの 3
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私たちが、魔力の枯渇により眠ってしまったあと、神殿周囲はもちろん騒然としていたという。
サーシェス辺境伯領に新たに赴任してきた人たちも、王都に送り返されようとしていた人たちも、そして集められていた領民や権力者たちも、全員私が使った魔法と、黒い髪と瞳を見てしまった。
「――――それで、どうなったの? カール」
「そんなこと決まっています」
私を見つめてくる護衛騎士カールの視線を私は知っている。
これは、推しを見つめるときの目だ。
(嫌な予感しか、しませんわ?)
聞きたいような、聞きたくないような複雑な心境のまま、話の続きを促す。
「カール、続きを」
「は! もちろん、我が主であるお嬢様が、いかにお優しく、可憐で、しかもサーシェス辺境伯を、そしてサーシェス辺境伯領を慈悲深く愛しておられるのか、全員が理解するまで、しっかりと語り尽くして参りました」
「――――なるほど」
黙っていたランベルト様の言葉。
なぜか納得してしまったように聞こえるが、カールの言葉はランベルト様を愛しているということ以外は、完全に盛られている。
「……えっと、その間、ガーランド叔父様は」
あの場所には、ランベルト様の叔父であるガーランド・サーシェス様もいらっしゃったのだ。
きっとフォローしてくださっているに違いない。
けれど、少しの希望的観測は、次の瞬間粉々に打ち砕かれる。
「ガーランド殿は、楽しそうに見ておられましたよ?」
「…………そうですか」
その真意については、ガーランド叔父様をのちほど問いつめる必要があるようだ。
「……ところで、領民たちの反応は」
「ルティーナ嬢、その前に……」
「ランベルト様?」
会話を制止して、少しふらつきながら立ち上がったランベルト様は、そのまま部屋にあった本棚から一冊の本を取り出すと私に差し出した。
「ルティーナ嬢、これを読んでほしい」
「……絵本、ですか?」
「ああ、サーシェス辺境伯で語り継がれている伝承を子ども向けにまとめたものだ。それほど時間がかからず読めるだろう」
「わかりました」
読み始めた本に、あっという間に私は夢中になった。
(絵本という体裁をとっているけれど、これは裏設定を教えてくれる重要アイテムに違いありませんわ!)
薄くて表紙と挿絵がかわいらしい、一見すると絵本にしか見えないその本は、意外にも小さな文字でびっしりと文章が書かれている。
そこに書かれていたのは、隣国の王家を蝕む呪いについてだった。
――――狼の姿に変えられてしまう呪い。
つまり、それはランベルト様に関係する物語。
そして、夢中になって読み進める私は、今後のことについて確認するランベルト様とカールの会話にまったく気がつくことができなかったのだった。
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