守られるだけなんて嫌ですの 2
なんとか腕の中から抜け出そうともがいていると、なぜか私のことを抱きしめている腕が震えた。
「……起きているのですか?」
「ははっ。そんなに俺から逃げ出したい?」
ピタリと動きを止めて、逆に近づいてみれば、動揺したようにランベルト様の体に力が入る。
(笑うなんて……。私だけ意識していたみたいで、恥ずかしいですわ)
「……いいえ、ずっとこうしていたいですわ?」
「……そういうところだ、俺を翻弄するのは。いきなり猛攻してくるのは、やめてほしいな」
そうですわね。無事にこうして一緒にいられて幸せですわ。
「無茶ばかりするのですもの。こうして捕まえておかなくては、いけないですわ」
「……手を、離そうとした」
その三角形の耳が、少しいじけたように後ろを向いた。
狼の顔は、表情がわかりにくいけれど、少しの変化が最近目に留まる。
「離れたくないから、ひと時離したのですわ」
「知っている」
「…………」
ぎゅっと抱きつけば、強く抱きしめ返された。
そう、こんなスチルがありました。
顔を赤くして、見上げたランベルト様は……。
「っ!? ほ、微笑まないでくださいませっ!」
「え? 笑ってなんかいない」
「嘘ですわ! キラッキラの笑顔で、微笑んでいるではないですか!!」
完全に、私たちのセリフは、シナリオからズレている。
だって、この場面では聖女が、必ず元に戻すとランベルト様に誓うのだから。
「この姿を見て、微笑んでいるなんて判別できるのは、君だけだ」
顎を指先で持ち上げられる。
そう、だからこれはなかったはずの、シナリオの続きだ。
「ランベルト様は、わかりやすいですわ。知りませんでしたか?」
「ああ、生まれて、君に出会うまで、知らずにいた」
「そうですか。……元の姿に、戻りたいですか?」
「…………」
少しの沈黙と、耳に寄せられた口元。
それは、内緒話のように。
「隣に君がいてくれるなら、どんな姿でも構わない。むしろ、どちらの姿がいい?」
「えっ!?」
耳元のくすぐったさに、気をとられていたから、返事が遅れてしまった。
もちろん、どんな姿でもいいですわ。
でも、モフモフの感触、好きですわ。
そう思ったのに……。
待ちきれないとでもいうように、カプリと甘噛みされた首元。
その時、思いっきり扉は開かれた。
騒々しく、まっすぐで、朗らかな声とともに。
「お嬢様〜っ!!」
「ぴゃっ!?」
あわてすぎて、ベッドから落ちかけた私を、ランベルト様は余裕で支えてくれた。
「…………あ、おじゃまでしたか」
「いえっ、こ、これはちがっ!!」
「……そうだな。ドアはノックしてから入るように」
「は、どうぞいかようにも処分を」
私の護衛騎士には、そういうところがある。
簡単に首を差し出すのは、やめてほしい。
「……ご苦労だった。それで、眠ってしまっていた間の状況を報告してくれ」
真面目なお話になりそうなので、そっと距離をとろうとして、ガシリと腰を掴まれ、引き寄せられる。
(なにもなかったように、報告を始める公爵家の騎士。素晴らしい練度ですわ)
けれど、護衛騎士カールが、公爵家令嬢ルティーナ、つまり私に心酔していることが、こんな形で今後の展開に関係してくるなんて……。
たぶん、誰ひとり予想できていなかったに違いない。
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