守られるだけなんて嫌ですの 1
***
頬ずりしたくなるような、モフモフの感触。
春の日だまりのように暖かそうだから、ずっとその中にいたくなる。
そのうえに、いい香りまでするのだもの。
「ルティーナ嬢」
白銀の髪、空色の瞳。
振り返った人は、私に優しく微笑んだ。
「スチル!!」
酸素不足のようにズキズキと痛む頭を押さえながら、ベッドから起き上がる。
そこは、見たことのない部屋だった。
静かすぎて、不安になる。一体どれくらい眠っていたのだろうか。
(――――少しさみしい部屋ですわ)
よく言えばシンプル、悪く言えば閑散とした部屋。
そろりと足を降ろして、立ち上がる。
寝室なのだろうか。ベッドにローテーブル。最低限のものしかない部屋だった。
(もう一つ、ベッドがありますわ? そして、この香りは……)
フラフラと、林檎と柑橘類みたいな、心を落ち着かせる香りの主の元へ歩みよる。
白銀の毛並みだけが、薄暗い部屋の中で、まるで光を宿したように輝いている。
「…………眠っている姿、初めて見ましたわ」
いつだって、ランベルト様は、私が眠るまで起きていて、私が起きたときにはすでに鍛錬を開始しているのだから。
だから、私はこんな風に無防備に眠るランベルト様を見たことがない。
短い息づかいは、見るからに苦しそうだ……。
「無茶をしますわね……」
緊急事態だからといって、ブローチなんて渡さなければよかったのかもしれない。
ランベルト様に、無茶をさせてしまったのは、結局私なのだと胸がズキズキと痛む。
(でも、あの時のランベルト様は、すべてを壊してしまいそうでしたもの。ご自分が大切にしてきたものまでも……)
ベッドの横にあるローテーブルには、宝石をなくしたブローチが置かれていた。
拾い上げて、ブローチに刻まれた狼のレリーフをそっと指先でなぞる。
(ゲームの中では、サーシェス辺境伯領を一番にしていたランベルト様が、あんな風に必死になる姿を見たことがなかったのに……)
シナリオでは出会うはずのなかった私とランベルト様。
それなのに、ゲームのシナリオから、大幅にずれても、似たような出来事は繰り返し起こる。
まるで、ヒロインの立ち位置を、無理に悪役令嬢に当てはめるみたいに。
「…………もう一度、整理してみなくては」
サーシェス辺境伯で起こった反乱。
ゲームの中では、狼の姿であることをよしとしない、神殿側の反対勢力から広がっていった。
そこに、特殊条件を満たした聖女が現れることで、状況が変化していく。
(今回の状況と似ていますわ。ただ、軍を率いていたのは反乱軍ではなく、王都の神殿からの圧力により、私を捕まえようとした、ガーランド叔父様でしたが……)
似たようなできごとが起こっているけれど、その理由は異なっている。
確定するには情報が少なすぎるけれど、もしかするとこれからも、シナリオに似たできごとは、起こるのかもしれない。
「ランベルト様を、守ってみせますわ」
ゲームのシナリオは、ある意味単純で、ランベルト様が人の姿を取り戻すことができればハッピーエンドで、狼に似た姿のままエンディングを迎えればバッドエンドだ。
(本当に……?)
ランベルト様のお姿を、元に戻す方法はあるのかもしれない。
けれど、このお姿になった理由もわからないまま、元に戻す、それだけで本当にいいのだろうか。
人生の大半を過ごしてきた姿を認められないまま、元の姿に戻るだけで、ランベルト様は本当に幸せになれるのだろうか。
「……甘い、香りですわ。それに、暖かそう」
もう一度訪れた、急速な眠気。
先ほどまで寝ていたベッドに戻ることができずに、ランベルト様が寝ているベッドに、もたれかかって眠ってしまった私。
(……ああ、でもシナリオに似たできごとが起きるということは、まだまだランベルト様のスチルを拝見する機会があるということですわね? つまり、人生というのはつらいことばかりでは、ないのですわ……)
次に目が覚めたときには、すでに部屋の中には、まぶしい朝の光が差し込んでいた。
「……!?」
そして、なぜか私はベッドの上で、ランベルト様に抱きしめられていた。
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