波乱の中でも一番はモフモフ辺境伯ですわ 6
周囲は、黒い宝石のように、七色に輝きながら煌めく光に満たされる。
それは、終わりのようで、始まりのようで、美しくて恐ろしい、非現実的な光景だった。
(間違いなく、私が引き起こしてしまったようですわ?)
私の腰にまわされていた腕に力が入る。
視界の端に映る黒髪。
女神、精霊、そんな単語がざわめきの中に聞こえてくる。
今、間違いなく周囲の視線は、ランベルト様ではなく、私に集中している。
「ルティーナ嬢」
「約束しましたもの。わざとではありませんわ」
「わかっている。……俺に任せてほしい。だが、一度だけこの姿で君と」
降ってきた口づけは、以前と違う。
(モフモフしたお姿が、大好きだけれど、口づけはこの姿のほうが、近くて、深くて、甘いですわ)
人前と言うことも忘れて、ランベルト様の上衣をすがるようにつかむ。
柔らかい感触は、ほんの一瞬。
次の瞬間には、モフモフした感触と、ひんやりした鼻先が、私の唇に当たった。
「君の姿、知られてしまったな」
「ランベルト様?」
「……その黒い美しい色を、神殿の関係者にも、領民にも、そしてサーシェス辺境伯領の有力者たちにも知られてしまった」
唇が離れ、目の前にいるのは、もう見慣れた大好きな白銀の毛並み。
最近表情がわかるようになった、愛しい狼。
そして、私の視界の端に映る髪の毛も、今となっては見慣れた紫色へと戻っている。
「……だが、君だけは、誰にも譲れない」
「ランベルト様」
それだけを言うと、おそらく私の発動した魔法を打ち消すために、残りの魔力を使い切ったランベルト様は、私に倒れ込んできた。
「ランベルト様!!」
「……この場は、俺にお任せいただけますか」
支えきれない体重が、不意に軽くなる。
顔を上げれば、目の前には、頼りになる護衛騎士がいた。
「っ、カール。…………ええ、この場は、あなたに任せるわ」
「ありがたき幸せ」
カールの表情には、余裕がある。
この状況を予想していたのではないかと思ってしまうほどに。
(そうですわね。以前、広場で魔法を発動しかけたときに、この姿をカールも見ていますものね)
軽々とランベルト様を肩に担ぎ上げ、馬車に押し込んだカールは、そのまま私に手を差し出して、同じく馬車に乗り込ませると、扉を閉じて御者に出発の指示を出す。
走り出した馬車。
ランベルト様の呼吸は、規則正しい。
だから、きっと大丈夫。
「私だって、ランベルト様だけは、誰にもおゆずりいたしませんわ」
私も、魔力を使いすぎたのかもしれない。
たった少し離れていただけで、恋い焦がれた、モフモフの柔らかさを感じながら、気がつけば私も深い眠りへと落ちていた。
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