波乱の中でも一番はモフモフ辺境伯ですわ 4
激しい物音に、目を覚ます。
不審に思って窓の外をのぞき見れば、周囲が物々しく武装した騎士たちに包囲されていた。
「えっ? どうしてこんなことに」
あわてて窓から距離をとる。
私を捕まえに来たのだろうか。
(す、すでに捕まっておりますのに!!)
けれど、鍵が閉まった部屋に閉じ込められている私には、できることはない。
恐怖に震えると同時に、心配で仕方がないのは、ランベルト様のご無事だ。
「ランベルト様は……」
魔力を使って、拘束された両手を自由にしようかと悩むけれど、もし外れていることが見つかってしまえば、ガーランド叔父様の立ち位置が不利になってしまうだろう。
その時、急に扉が開く。
先ほどの神殿騎士が、あせりをにじませている。
「いったい、何があったのですか?」
「……ご同行願えますか」
「……は、はい」
そのまま、外に連れ出される。
完全に包囲された神殿。
このまま、差し出されてしまうのだろうか。
シャラリと音を立てた、ブレスレット。
先ほどより、冷たくなっているような?
気のせいではなかったらしく、次の瞬間、ブレスレットの宝石が、さらに冷たく凍り付いたようになる。
――――ガシャン。
「え…………?」
魔力なんて少しも使ってないのに、私の手首を拘束していた魔道具が、自然と外れ地面に落ちた。
驚いたように振り返った、神殿騎士が、魔道具を凝視する。
いいえ! なにもしていませんわ! と伝えようと、ぶんぶんと首を振る私。
その時、ひときわ冷たい風が吹き荒れた。
それと同時に、神殿騎士が、その凍った魔力に拘束されて膝をつく。
「…………こんなに冷たいのに、甘くて爽やかな香りがしますわ」
「君の香りの甘さには、負ける」
「…………思ったよりも、早かったのですね」
「これでも、遅すぎたくらいだ」
自分で思っていたよりとずっと、不安に思っていたのだろう。
こぼれそうになる涙をなんとか抑え込んで振り返る。
白銀の髪は、思ったよりも細くて、予想以上に艶やか。空色の光を宿したどこか冷たさや厳しさを秘めた目元は変わらない。鼻筋が通っていて、薄い唇は弧を描いている。
氷に閉ざされた世界のように冷たさすら感じる美貌。でも、微笑みを浮かべれば、氷細工のように繊細で美しくも見える人。
「……ランベルト様」
「……ルティーナ嬢、少ししか離れてないのに、まるで永遠のようだった」
「どうやって、ここに」
「そのブレスレットに、幼い頃から魔力をため込んできた。それを使えば、君のそばに来ることなど造作もない」
シャラリともう一度、ブレスレットが音を立てた。それは、私が走り出したからなのだろうか。
それとも、魔力が揺らいだからなのだろうか。
「ランベルト様!!」
普通に考えれば、あまりの美貌にためらってしまいそうだけれど、大好きなランベルト様に再会できた今は、姿なんて大きな問題ではなかった。
飛び込んだ私を、ランベルト様は、簡単に抱き留める。
「……さあ、今度こそ一緒に帰ろう?」
「あ、あの」
「もう、今回の問題はすべて片付けてきたから」
その言葉が、真実であると知るのは、もう少し後のことだけれど。
ランベルト様は、いともたやすく私を抱き上げて、歩き出したのだった。
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