波乱の中でも一番はモフモフ辺境伯ですわ 3
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サーシェス辺境伯領の神殿は、王都の神殿とは違って、重厚な造りだった。
大きさが違う灰色の石が組み合わされて作り上げられた神殿は、大きな窓が取り付けられているせいで薄暗くはない。
「――――えっ?」
見上げた天井に描かれているのは、黒髪の女性と狼。
それは、王都やウィリアス公爵領の神殿では見たことがない絵だった。
(ゲームでいうところの、攻略のヒントに違いありませんわね!)
乙女ゲームでは、語られていなかった、ランベルト様が狼の姿になってしまった理由。
エンディングでは、語られたのかもしれないけれど、それを私は見ることができなかった。
でも、もしかしたら、この場所で調べれば、何かがわかるのかもしれない。
「さあ、こちらに」
「はい……」
私に抵抗する気がないとわかったからなのか、神殿騎士たちの対応はとても丁寧だ。
もっと、縄で縛られるとか、冷たい牢屋に閉じ込められるとか、そういう想像をしていたのに、案内された部屋は、狭いけれど清潔なシーツが掛けられていた。
「ありがとうございます」
「礼を言われるようなことは……」
「いいえ、私などにこんな丁寧に接してくださって感謝していますわ」
「……職務ですから」
神殿騎士は、なぜか顔を赤くして視線をそらした。
どちらかと言えば、薄ら寒い神殿の中なのに、と私は首をかしげる。
(だって、悪役令嬢なのですもの。こんな扱い上等すぎますわ?)
なぜか申し訳なさそうな顔をした神殿騎士の手により扉が閉められる。
窓があると言っても、少々薄暗い部屋。
でも、トイレはあるし、お水も置いてくれている。
「なんだか、とても疲れましたわ……」
サーシェス辺境伯領について、歓迎されるとは思っていなかったけれど、まさか剣を向けられるなんて、さすがに想定外だった。
神殿が先に手を回している可能性だって、考えなければいけなかったのに。
ゴロリと横になったベッドは、ランベルト様と一緒に泊まった宿屋や公爵家と比べて固い。
「でも、これくらいの堅さのほうが、柔らかすぎるよりも寝心地はいい気がしますわ」
目をつぶれば、先ほど見た絵画が目に浮かぶ。懐かしい色合いだった。
先ほどの黒髪の女性は、女神か精霊なのだろう。
この世界には、黒い色を持つ人間はいない、黒い髪や瞳を持つのは神や精霊の一部だけなのだと、ランベルト様が言っていたから。
「それって、かなり重要な情報なのでは?」
この世界に招かれた異世界からの人間。
大きな力を持ったその人たちが、過去にもいたのだとしたら……。
「ランベルト様……」
ヒンヤリとしたブレスレット。
まるで、ランベルト様の魔法が石になったみたいに、冷たくて、きれいな空色の宝石。
「もう、会いたくてしかたがないなんて、どうかしていますわ」
ランベルト様は、私が神殿に来てしまったことをどう思うかしら。
勝手な行動にあきれて、嫌われてしまうのかもしれない。
「でも、私は何があっても、ランベルト様を守りたいのです」
ベッドの上で引き寄せた布団は、薄くて少々心許ない。
いつもそばにいてくれたフワフワの感触が、恋しくて仕方がない。
(それでも、私はランベルト様が大事にしてきたものは、全部守りたいんですの。でも、できれば早く迎えに来てくださいませ)
私は布団にくるまり、ベッドの上で丸くなった。
その頃、外で何が起こっているかなんて、知りもしないで、疲れ切っていた私は、眠ってしまったのだった。
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