波乱の中でも一番はモフモフ辺境伯ですわ 2
ランベルト様は、眠らされて、別の部屋にいるらしい。
そして、なぜか私は今、ランベルト様の叔父、ガーランド・サーシェス様と二人きりで対面している。
乙女ゲームのイケオジ枠として、一部から絶大な人気があった、ガーランド叔父様と。
「――――あの、私と二人きりなんて、危険かもしれませんわよ?」
「危険なのか? ランベルトに剣と魔法を教えたのは、他ならぬこの私なのだが」
「…………用心するに越したことはないですわ」
「そうか」
短い返答の後、ガーランド叔父様は、優雅にコーヒーカップを傾け、しばらく室内に沈黙が訪れた。
「…………ウィリアス公爵令嬢は、ランベルトのことどう見る?」
「え?」
唐突な質問に、少しだけ考える。
もちろん、ランベルト様はモフモフで、素敵で、全世界と次元で一番かっこよくて、優しくて……。
(素敵すぎますわ。どうして、私の推しはこんなにも素晴らしいのかしら)
頬が染まるのを止めることができない。ほんの少しだけ、ランベルト様のことを考えただけで。
「今の一瞬で、ランベルトへの君の気持ちは、痛いほど伝わったが……」
「ランベルト様は、素敵ですわ。でも、そういうことではないのですわね?」
妄想の中のランベルト様が愛しすぎて、淑女が浮かべてはいけない類いの笑顔になってしまった私は、それを押し隠すために、紅茶を一口飲み込んだ。
熱い紅茶の爽やかな香りと少しの渋みが、思考をクリアにしてくれる。
「…………危ういですわ」
「――――それは」
「あの場面では、一旦形だけでも私のことを手放すべきでした。ランベルト様が、サーシェス辺境伯領で確固たる地位を確立しているなら別ですが。少なくとも、ガーランド叔父様、んっ、ガーランド・サーシェス様を敵に回すのは間違いでしたわ」
ランベルト様が、そこまで私のことを思ってくれたことはうれしい。
でも、私はランベルト様に、今までの努力も、大切にしてきたことも、支えにしてきた人たちも、なにひとつ手放してほしくない。
「…………」
「でも、ガーランド様も、少々行動が性急ですわね?」
「それはどういうことかな?」
「…………私は、ランベルト様の地位を確実にするための奥の手を持っております。それに、神殿と王家を敵に回さなかったとしても、我がウィリアス公爵家を敵に回せば、サーシェス辺境伯領は崩れますわ」
それだけ言って、私は紅茶を飲み干した。
「……」
「……」
(ああああ、こんな交渉なんて私には無理ぃ。でも、ランベルト様のため、いまだけ本気の公爵令嬢ルティーナをみせるのよ!!)
震えそうになる手を叱咤して、私は余裕に見えるように唇の端を上げた。
ルティーナ・ウィリアスが、涙を流すことに耐え、つらく険しい王妃教育を乗り越えきた日々を、決して無駄にはしないように。
「でも、このままではいけませんわ。手を組みませんか?」
「…………」
テーブルの上に、コトリと置いたのは、公爵家から持ち出してきたブローチだ。
このブローチは、おそらく真実の姿を取り戻す類いの魔法が込められている。
だから、私が前世の姿を取り戻したように、ランベルト様の姿も。
「このブローチがあれば、魔力が続く間は、元の姿を取り戻すことができるでしょう」
「…………それは」
「私は、神殿に向かいます。ランベルト様には、こちらをお渡しください」
「なぜ、そこまで」
「…………命を捧げるほど、推しているから。そして、それに愛まで、加わってしまったからでしょうか。最推しへの愛は、重いのですわ?」
このブローチが、本当にランベルト様を元の姿に戻せるのかは確定されてはいない。
それでも、このまま神殿と王家の好きなようにされるのは、許せない。
「――――その姿で、サーシェス領の神殿に迎えに来てほしいとお伝えください。それから、要職に就いている皆さまと、領民の皆さまをその場所にできる限りたくさん集めてくださいませ」
「…………すべて成功したときには、あなた様に忠誠を誓いましょう」
「え!? ガーランド叔父様に、忠誠を誓われるとか、恐れ多いですわ!?」
ガーランド叔父様が、聖女とランベルト様に忠誠を誓うシーンは、ものすごく素敵なスチルなのだ。
ランベルト様を前に、国内でも有数の実力を持つサーシェス辺境伯騎士団の制服をまとったガーランド叔父様は、ものすごくかっこいいのだ。
ガーランド叔父様を攻略対象にしてほしいと、公式様へ要望が集中したという噂が流れたほどに。
「ふふ。ランベルトが夢中になるのがわかるような気がします」
公爵令嬢としての笑みを崩さないまま私は立ち上がった。
「さ、逃げられないように、拘束してくださいませ?」
差し出した私の手を、真剣な瞳でガーランド叔父様が見つめた。
その視線の先にあるのは、ランベルト様からいただいた、空色の宝石と白銀のチェーンのブレスレットだ。
「そのブレスレット、ランベルトから渡されたのですか」
「え?」
「魔法使いが告げたどの未来でも、ランベルトはそのブレスレットを誰にも渡さなかったのに」
「…………」
乙女ゲームでは出てこなかったこのブレスレットは、もしかすると本当に大切なものなのかもしれない。
「そうですか……。初恋でほかが見えないらしい甥のため、サーシェス辺境伯領のため、どうしても、成功させなければいけないようです」
カチャリと小さな音と共に、私の手首は魔道具で拘束された。
「…………拘束を外したいときには、少しだけ魔力を流してください」
「え?」
小声でそれだけ言うと、ガーランド叔父様は私に背を向けた。
入れ替わるように、神官の衣装に身を包んだ神殿騎士たちが入ってくる。
幸い、乱暴な扱いを受けることもなく、私は騎士たちに連れられて神殿へと向かったのだった。
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