一緒なら幸せですわ 3
「なるほど、私にも推しというものが、わかってきた気がいたします」
「そうでしょう、そうでしょう」
うんうん頷く私と、なぜか首をかしげて思案している侍女、マリン。
そして、一つ頷くと、頬を軽く上気させて、口を開いた。
「……ですが、私はサーシェス辺境伯というより、お嬢様と並んでいる姿を推したいですね」
「推しカプ……」
「おしかぷ?」
つぶやいた私に、もう一度首をかしげたマリン。
(まさか、自分がそんな目で見られる日が来るなんて、夢にも思いませんでしたわ?)
その間も、マリンの手は動きを止めず、器用に髪の毛を編み込んでいく。
最後に、空色のビーズが白銀のチェーンの先で揺れる、可愛らしい髪飾りがつけられる。
薄くてフワフワ揺れる清楚な空色のドレス、ところどころに控えめにちりばめられた白銀の小さな薔薇の飾り。
「やり過ぎなのではないかしら?」
「お嬢様。私の敬愛するお嬢様が、悪意ある噂で誤解されるなど許せません。お二人が並ぶときは、これくらいで良いのです」
「そ、そうかしら……」
「少なくとも、サーシェス辺境伯は、喜ばれますよ」
その言葉に勇気をもらい、部屋の外に出る。
ドアを開けると、目の前にはランベルト様がいた。
「……えっ、ずっと待っておられたのですか?」
「何かあっては大変だからな」
「ずいぶん長くお待たせしてしまいましたね」
「……どんな姿かと、想像するのも楽しかった。それに、美しく着飾ったルティーナ嬢を一番に見たかったから」
次の瞬間、グッと片手で引き寄せられて、久しぶりに高いヒールを履いた足が宙に浮く。
「空色のドレスか……」
ふわふわとした毛並みに、首元がくすぐったい。
「ルティーナ嬢は、俺を喜ばせるのが上手い」
「……それでは、私のことも喜ばせてくださいますか?」
手を伸ばし、ランベルト様の腕に、金色の細い金具に控えめに紫の宝石が輝く腕輪をそっと着ける。
「ランベルト様が、私の色を身につけてくださっている!!」
白銀と空色を持つランベルト様に、紫色の宝石はよく映える。
あまりの感動で、私はプルプル震えながら、ランベルト様にしがみつく。
「そんなに喜んでくれるなら、一生外さない」
「えっ」
ランベルト様が、私みたいなことを言った。
そのことが少しおかしくて、それ以上にうれしくて、私はますますしがみつく。
「……さあ、ここをくぐれば我が領内だ」
「感激ですわ!!」
抱き上げられながら、門をくぐる。
こうして私は、憧れのサーシェス辺境伯領に足を踏み入れたのだった。
夢にまで見た憧れの地。
決して訪れることはできないはずだったその場所に、私はたどり着く。
「…………叔父上、どういうことだ?」
けれど、感動を打ち消すように聞こえてきたのは、凍り付いたように冷たく鋭利なランベルト様の声。
抱き上げられた私には、見えない後ろから、剣が抜かれる音がいくつも聞こえてくる。
記憶の中からなぜかすっかり抜け落ちていたイベント。
サーシェス辺境伯領で、ヒロインが巻き込まれるのは……。
(こんな大切なこと、なぜ忘れていましたの!?)
……ヒロインとランベルト様が本格的に愛を深めるきっかけになるイベントなのだけれど。
思い出したとき、時すでに遅く、私たちはランベルト様の叔父を筆頭にした反乱軍に、囲まれてしまっていたのだった。
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