一緒なら幸せですわ 2
淡い茶色の髪を揺らしたマリンは、私の手を引っ張り、幌馬車へと連れていった。
大きな幌の中は、ドレスや宝石類であふれかえっていた。
「公爵家クオリティ!!」
「なにをおっしゃっているのですか。ルティーナ様こそが、王族にも負けぬ富を持つ、ウィリアス公爵家の唯一の嫡子でいらっしゃいます」
「……あ、そうですわね」
慌てて取り繕うけれど、記憶を取り戻してからというもの、言葉も行動もブレてばかりなのは自覚しておりますわ。
「……それで、この大行列はいったい」
「もちろん、サーシェス辺境伯家に嫁ぐ準備です」
「嫁ぐ……? っ、嫁ぐ!?」
とたんに顔が熱くてたまらなくなる。
真っ赤になっているだろう。こんな人には見せられない。
「…………お嬢様だけの問題ではないと、おわかりでしょう?」
「……わかっておりますわ」
隣国と王国の間でいまだ揺れるサーシェス辺境伯家、そして婚約破棄という王家の裏切りによりサーシェス辺境伯家との結びつきを強くすることを選んだウィリアス公爵家。
推しを追いかけて、という簡単な問題ではないのだ。私たちの婚約は。
(……でも、ランベルト様の幸せは、すべてに勝りますわ)
なにもできないとあきらめてしまうなんて、公爵家令嬢ルティーナには、ふさわしくない。
記憶を取り戻した私が、どうしても庶民的感覚を捨てられないのだとしても、ここまでがんばってきたことまで否定されたくはない。
「わかりましたわ。サーシェス辺境伯の婚約者、公爵家令嬢としてふさわしくしてくださいませ」
「ええ、そのために参りました」
私たちは、うなずきあう。
マリンは、私の侍女をしてくれているが、れっきとした子爵家令嬢だ。
彼女にかかれば、悪役令嬢としてのポテンシャルは、余すところなく発揮されるに違いない。
すでに用意されていた、辺境伯領の境にある宿屋の一室につれていかれ、もとの姿を取り戻していく。
「ところで、お嬢様。日に焼けすぎです!! 帽子は被っておられましたか!? 肌も荒れています!!」
コルセットを締め上げられながら、降ってきたお叱りの言葉。
久しぶりだわ、このコルセットの締め上げ。
そして、もちろん浮かれた私は帽子なんて被らずに、推しとのかけがえのない日々を満喫していた。
このお小言も、久しぶりで、懐かしくて、少しうれしい。
「…………置いて行かれて悲しかったです。今度から、必ず私もお連れくださいませ」
「わかったわ。マリン……」
公爵家にいたときのように過ごすことはできないのに、着いてきてくれたマリン。
実家の子爵家とのこともあるだろうに……。
「それにしても、辺境伯様のお姿、もっと恐ろしいかと思っていたのですが、可愛らしいですね?」
「っ!! わかる!?」
そのあと、変身する時間いっぱい、私はマリンにモフモフの尊さについて語りまくったのだった。
推しの素晴らしさを聞いてくれる人がいるって素晴らしいですわ(*´人`*)
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