一緒なら幸せですわ 1
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その後も、いくつかの宿屋に泊まり、長い旅は続いた。
頂には竜が住むという、青い山脈を眺めながら、街道を進む。
もうすぐ、はじめての長旅は終わる。
王都と、ウィリアス公爵領、そしてゲームの中の知識でしかこの世界を知らなかった私にとって、何もかもが新鮮だった。
しかも、隣には最推しがいる。
「ランベルト様! 辺境伯領まで、あと少しですね?」
「ああ……。ところで、緊張しないのか」
ランベルト様の言葉に、少しだけ眉を寄せた。
もちろん、緊張しないわけではない。
でも、現在の私にとって、緊張は日常茶飯事だ。
「こうして、私の隣にランベルト様がいるという事実。それ以上の緊張などあるでしょうか? ……いいえ、ありませんわ!」
「…………そうか」
先ほどまで私のことを見つめていたのに、スイッと目をそらしてしまったランベルト様。
照れていらっしゃるのだろうか。今日も私の推しは尊い。
「それに、王都の社交界に私の居場所はなかったでしょうから。サーシェス辺境伯領の皆さまに、少しでも早く受け入れていただけるように努力いたしますわ」
「…………ルティーナ嬢」
それに、新たなスチルは、辺境伯領に眠っているはずだ。
ランベルト様のモフモフで尊いお姿。今までのお姿も、心のアルバムにしまってあるけれど。
「そんな顔しないでください。私は」
「――――つらい思いをさせるかもしれない」
「……それは、ランベルト様が味わってきたことでしょうか」
「……え?」
「ランベルト様と同じ経験なら、買ってでもしたいですわ」
「…………」
辺境伯ランベルト・サーシェス。
ゲームの中で語られるのは、狼に似たその姿。
そして、王国最高峰の魔法の使い手であると同時に、剣でも五本の指に入るだろう実力。
謎に包まれたサーシェス領の若き当主。
「私が知っているのは、今のランベルト様と、サーシェス辺境伯領に関するほんの少しの知識だけですが……」
幼い頃にその姿に変えられてから、後継者としては不適格だとされたランベルト様は、ずっと努力して今の地位と実力を手に入れた。
けれど、今もこの姿のせいで、ランベルト様が領主としては不適格だという周囲の意見は一定数存在する。
「ランベルト様、明日にはランベルト様のお屋敷に着きますね」
「…………ああ」
「あら? ずいぶん混んでいますのね? 辺境伯領に入りたい方ってとても多いのですね?」
「――――いや、そんなはずは……」
見えてきた白く長い壁。
辺境伯領は、検問所を通らないと入ることができない。
けれど、検問所には数え切れないくらいの荷馬車が列を作っている。
「……どこかで見たような気がしますわ」
「ああ、俺はもう理解した」
「え? それはいったい……」
ランベルト様は、御者に声を掛けると馬車を降りてその列へと向かっていった。
しばらくして、戻ってくるランベルト様の後には、追い抜きそうなほどに興奮した侍女が一人。
「…………っ、お嬢様!!」
やさしい淡い茶色の髪の毛を珍しく振り乱しながら、私に泣きながら抱きついてきたのは、私の専属侍女のマリンだった。
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