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モフモフ辺境伯はおゆずりいたしませんわ 3


 ……あら。ヒーローの背中に隠れたヒロインは、本当にかわいかったけれど、こうして実物を見るとあざといわね。


 そうこうしているうちに、王太子殿下が一歩前に踏み出した。


「ウィリアス公爵家令嬢ルティーナ! 貴様との婚約は今日をもって破棄する!」

「はい! 喜んで!」

「…………は?」


 ぽかんとした顔の王太子殿下と、自慢そうな表情に理解が追いつかないとでもいうように困惑を浮かべた聖女。

 これから私は、モフモフ辺境伯様と幸せになる予定ですので!!


「……でも、その前にプレゼントですわ?」


 ドレスの裾を恭しくもって、王太子殿下に向けて最後の礼を尽くす。

 そう、これが最後なの。


「私とウィリアス公爵家を陥れようとした陰謀の証拠は、すでにそろっております」


 タイミングよく現れたお父様に頷いて、私は会場を後にしようとした。

 この後は、すべてお父様がいい感じに解決してくださるだろう。


 ……ランベルト様から、婚約承諾の返事がないのが気がかりなのですが。

 ダメなら、攻略知識を生かして、神殿スローライフでも仕方がないわ。

 それはそれで楽しそう。犬をたくさん飼って、モフモフ幸せに暮らすの。


「これは、いったい……? 王太子殿下とウィリアス公爵家令嬢の婚約破棄だなんて、ひどい冗談だと心のどこかで思っていたが、本当に起こるとは」


 その時、私の背中から、低くて甘い声がした。

 振り返ると、そこにいたのは大きな背丈にがっしりとした肩幅、白銀の毛に覆われた狼のような顔をした、憧れのランベルト・サーシェス辺境伯様だった。


「さ、サーシェス辺境伯様!!」

「……俺がわかるのか。……まあ、有名だからな、この姿は」

「お、お会いしたかったです!!」

「……ああ、たとえ本音ではなくても、恐れることなくそんなことを言ってくれる人は貴重だ。うれしいよ」


 本物のランベルト様が目の前にいることに、鼻血が出そうなほどクラクラしながら、そのお姿を見上げる。思った通り、月が輝くような白銀の毛並みが美しい。


「――――さて、いくら婚約破棄されたとは言っても、俺のような野獣と呼ばれている人間と婚約なんて不本意だろう? ルティーナ嬢は、父上から命令されたのか? それに、婚約打診で公爵家のすべてがゆくゆくは俺のものになるとか、持参金の額とか、譲られる権利とか……。あまりに破格すぎて怖いのだが」

「え……? そうですか?」


 公爵家の一人娘である私と結婚すれば、ゆくゆくは公爵家のすべてがランベルト様のものですわ?

 王妃になってしまえば、王家が手に入れるはずだった公爵家のすべてが。

 まあ、私にいわれのない罪をなすりつけて、修道院に送って、王家はすべてを手に入れようとしていたのでしょうが、そんなことさせません。


「それに、その……。俺と婚約しなければ、神殿送りとか、年老いた貴族の後妻とか……。申し訳ないが、まだ、その方がましだと思うのだが……? この姿を見ればさすがに公爵も考え直してくれるのではないか。よかったら、そんな場所に行かずにもっと条件のいい相手を探すことができるように、一緒にウィリアス公爵を説得しよう」

「ま、まさか……。そのためにわざわざ来てくださったのですか?」

「ああ、申し訳ないな。君のような美しい女性なら、いくらでも相手はいるだろうに、どうして俺が選ばれた?」


 ……そうだった。ランベルト様は、ものすごく自信がなくて、お優しいのだ。

 はじめは、モフモフだけが目的だったけれど、私はその優しさも、お人好しすぎることも、守ってあげたくなるような少し頼りないところも全部。


「――――好きです。モフモフ」

「…………は?」

「あの……。逆に、ランベルト様は私のような女が婚約者になるのはお嫌ですか?」

「……え? 俺は、選べる立場では……」

「お嫌ではないのですね? では、婚約を受け入れていただけるのでしょうか?」


 キョトンと大きく開いた瞳。

 その色は、あまりにも美しい空色をしている。

 聖女と一緒に愛を育めば、その姿は美しい人の姿になるという。


 でも、その姿が披露されるエンディングを見ることは、結局できなかった。

 だから、私が知っているランベルト様は、モフモフで自信がなくて、でも才能があって、優しい、この姿だけだ。


「好きです……。そのお姿」

「え、ええっ!?」

「どうか私と、婚約していただけませんか? 絶対に幸せにしてみせます」

「それは、俺のセリフなのでは……。いや、どうして」

「答えは、できれば、イエスでお願いしたいのですが……。ダメですか?」


 少し悲しげに、上目遣いに。

 ……あざといと言われたって構わない。全力の悪役令嬢の魅力!!

 だって、ルティーナはかわいらしい。ただ、いつも次期王妃として高潔であろうとしていたせいで、冷たく見えてしまっただけで。


「あ、俺は……。ルティーナ嬢が嫌でないのなら」

「ふふふ!!」


 言質はとりましたわ!!


 私は、かわいらしい、モフモフ婚約者の手を引いて、断罪返し真っ最中の会場に乗り込んで、声高々と婚約を宣言した。


「私、たった今、サーシェス辺境伯ランベルト様と婚約いたしました!!」


 静まりかえっていた卒業式の会場が、さらに静まりかえる。


「お、おい! こんな貴族が集まった場所で宣言なんてしたら撤回できなくなるぞ!?」

「えっ、お嫌でしたか……?」

「えっ? いや、俺には過分というか……。早まるなと言いたいだけで」


 私はランベルト様に向かい、にっこりと微笑んだ。ランベルト様の喉がゴクリと鳴る。

 撤回できないなんて、最高です。

 ここまできたら、人生を捧げる推しを、絶対に逃がしませんわ。


「い、いくら婚約破棄されて自暴自棄になっているからといって……」


 小さくつぶやかれた、ランベルト様のお言葉は、私には聞こえなかった。

 ランベルト様は、攻略対象キャラクターの中でも、最高の難易度を誇る。

 そのことに気がつくのは、翌日のことなのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「好きです、モフモフ」はパワーワードですね。令嬢のテンションが高くてクスクスします。
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