表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍配信中】悪役令嬢なので可憐に退場しますが、モフモフ辺境伯だけはおゆずりいたしませんわ  作者: 氷雨そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/52

推しと二人きりなんて無理ですわ 8



 握られた手のモフモフ感触に酔いしれていると、なぜかその感触がゴツゴツしたものに変わる。


「……!?」


 目を見開いて凝視すると、その手はいつもの白銀の毛に覆われたモフモフではなく、どこからどう見ても成人男性の手だ。


「ら、ランベルト……様?」

「っ、振り返らないでくれ」


 震える私の手を、無言のまま、もっと強く握ったランベルト様。

 なぜかその手が私よりも震えているように思えるのは、気のせいなのだろうか?


 首筋に触れるのは、くすぐったくて、さらりとした絹糸のような。


(……髪の毛?)


 少々痛みを感じるほど握る手の力に、私の戸惑いは大きくなるばかりだ。


 ほんの数秒のできごとだった。

 その手は再びモフモフしたいつもの触感に戻る。


 首筋に触れるのも、ふわふわで、やっぱりくすぐったい感触だけで……。


 ようやく、手の力が緩められて自由になる。

 そのまま、私の体を抱きしめてきた腕の中で、クルリと向きを変えて、目線を上げる。


「ランベルト様……?」

「発動しなかった……。君の、魔法」


 振り返った先にいたのは、モフモフの毛並みが愛らしくて尊い、いつものランベルト様だ。


 でも、聞かなくては。

 もし、今起こったできごとが幻などではないなら、聞かなくては。


「……私の魔法、でしたの?」

「……ああ。だが、もう使わないでくれ」

「なぜですの」

「初めて見る魔法だ。使った結果、ルティーナ嬢の身になにが起こるか、俺にもわからない。それに、先ほどの君は……」


 ふと、視線を感じて振り返れば、青ざめたカールと目が合う。

 あんな顔をしたカールを、私は見たことがない。


 先ほどのできごとを振り返る。

 モフモフでは、なくなってしまったランベルト様。

 その衝撃で、ほかのことに目を向けられなかったけれど、もう一つ、私の視界の端に映っていたのは。


 黒……。黒い、髪の毛。


「ランベルト様、私の姿」

「ああ、あのブローチを着けたときと同じだった」

「そうですか……」


 早朝の広場には、幸い誰もいない。

 ランベルト様とカール以外には、誰にも見られなかったから、このできごとをなかったことにすることもできるのだろう。


 そして、モフモフなサーシェス辺境伯ランベルト様と悪役令嬢ルティーナは、いつまでも幸せに……。


(……幸せに? ……検証は必要ですけれど、ランベルト様のお姿を戻せる可能性がある魔法。なかったことにする案はボツですわ?)


 そんな私の頭上から、不安と焦りを織り交ぜたようなランベルト様の声が降り注ぐ。


「ルティーナ嬢! もう一度言うが、なにが起こるかわからない。解明されていない魔法は、危険なものだ。絶対に使ってはいけない」

「……はい! わかりましたわ!」


 あら? どうしてそんな風に眉を寄せていますの?

 ちゃんと、はい、と返事をいたしましたのに。


「……ぐ、不安で仕方がないのはなぜだ」

「安全第一にがんばりますわ!」

「がんばらないで、ほしいのだが……」


 ランベルト様を取り巻く問題のほとんどは、元のお姿さえ取り戻せば解決する。

 それなのに、私の身を案じてくれたランベルト様。


 ……でも、ランベルト様がどれだけサーシェス辺境伯領を大切にしてきたか、領主であることを誇りにしてきたか、ゲームの中だけとはいえ、私は知っているから……。


(ありがとうございます。私、その優しさに報いますわ!)


 安全第一。けれど、ランベルト様の幸せのためにがんばると、私は密かに誓ったのだった。


 

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ルティーナの魔法は綺麗ですごいです! モフモフしていないランベルト様♪ 楽しみです(≧∀≦)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ