推しと二人きりなんて無理ですわ 5
「さて、満足か?」
「ええ、機会をいただき感謝いたします」
騎士の誓いを終えると、誠実さを感じる立礼をして、カールは宿屋を出て行く。
今夜は、別の場所に宿を取るらしい。
次の瞬間、モフモフの手に強く掴まれ、引っ張られる。
階段を勢いよく上がって、少し息を切れた私に構う余裕がないようなランベルト様。
「あの……」
「…………」
(いったいどうされたのかしら……)
足早に部屋に入る。ランベルト様は無言のままだ。
「あの」
「ルティーナ嬢……」
ランベルト様との距離が近い。
あまりに私のことを見つめながら近付いてくるから、ジリジリと後退しているうちに壁際に追い詰められていく。
身長差があるから、少し背中を丸めたランベルト様。
その右腕が、私の顔をかすめるように通り過ぎ、壁に当たる。
「はっ、はわわわわ!?」
こっ、これは!! 壁ドン!! 今、私は最推しに壁ドンをされています!!
余裕がないのだろうか。白銀の毛並み、空色の瞳は、まっすぐに私だけを映している。
「――――俺だって、誓うのに」
「…………え?」
至近距離のまま、私の手首を持ち上げて、ブレスレットに口づけを落とすランベルト様。
ただ、それだけなのに、この場所から思わず逃げ出してしまいそうなほど、息苦しい。
「ルティーナ嬢を守るためなら、命も、魂も、俺が差し出せるすべてをかけて誓うのに」
「…………ランベルト様」
ランベルト様は、いまだ隣国と王国の間で揺れるサーシェス辺境伯領のために、命をかけて、すべてを捧げて生きてきた。
ゲームの中でランベルト様について語られる一文でしか私は知らない。
見てきたわけではない。……でも。
「私には、そんな価値はないです。なんせ、婚約破棄された噂の悪女ですから……」
最推しのランベルト様になら、何でも捧げるけれど……。
婚約してほしいなんて、私の気持ちをおしつけてばかりきたけれど……。
「ルティーナ嬢の噂も、価値も俺は知らない。ただ、俺にとっての宝の価値は、俺だけが決める」
「…………ランベルト様」
「君は、どこか俺ではない理想の誰かを俺に重ねているようだから……。心が狭いんだ、俺は。幻滅した?」
「うっ…………うう」
心臓が口から飛び出してきそうなほど高鳴っている。
いまだに、壁ドンの体勢のまま、少し弱気なランベルト様。
「――――そんなランベルト様のこと、全力で推しますわ!! 好きですわ!! 好きになる一方なのですわ!!」
それだけ伝えた私は、満足して、推しから壁ドンされた人生最高クラスのできごとをかみしめて、床に崩れ落ちたのだった。
前回の後書きでお伝えしたランベルト様sideは、第十七部分に割り込み投稿しています。
是非ご覧ください♪
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