推しと二人きりなんて無理ですわ 2
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王都から、サーシェス辺境伯領までは、馬車で1週間程度かかる。
もう日も暮れて、夜空には金の星が輝いている。
私が急に同行することになったせいで、宿屋に着くのは少し遅くなってしまった。
赤いレンガ造りの、この街唯一の宿屋。
ランベルト様が、鍵を差し込んだのは、この宿屋で一番いい部屋で間違いない。
調度品も、飾られた絵も、一流の品ばかりだ。
でも、問題はそこではなくて……。
「ランベルト様? ところでこれはいったいどういうことなのですか?」
「ルティーナ嬢を一人にするわけにはいかないからな」
「だからって」
私に用意された部屋もとても広くて豪華だ。
唯一の懸案事項がランベルト様と同室というだけで。
「……怖がらせたいわけではないが」
扉の前に立ったままの私の手を引いて、ランベルト様は、ソファーの横に座るように促した。
ふかふかのソファーは、座ると沈み込んでしまい、立ち上がるのに苦戦しそうだ。
「すでに、数組の怪しい人間を捕らえている」
「え?」
「おそらく王妃か神殿の偵察、あるいは刺客……。強力な精霊魔法の使い手だった」
ソファーに座っている間も、ランベルト様は私の手を握ったままだ。
刺客が現実にいるなんて、衝撃的で、もちろん怖いですわ……。
「だから、俺は君から離れるつもりはない」
でも、この状況は、私にとってもっと大変なのです!!
最愛の推しと宿屋に二人きりなんて、心臓が壊れてしまいます。
「あ、あの……」
「心配しなくてもいい。この部屋にいてもいいと許可だけくれ。ドアのそばで待機しているから、いないものとして……」
その先が、聞きたくなくて、握られていたのと反対の手で思わずランベルト様の口元を手で押さえてしまった。
(でも、やっぱり当たり前のようにそんなことを言うのはダメです)
私を見つめたまま、驚いたように、震える白銀のまつげ。
長くて美しいまつげに縁取られているのは、空色の瞳だ。
ランベルト様の口元から手を離す。
「ルティーナ嬢?」
「わかりました」
ふかふかすぎるソファーから、苦労して立ち上がり、ランベルト様の手を引く。
「私はここに寝ますので、ランベルト様は、そちらのベッドをお使いください」
「…………」
あら、なぜかランベルト様の機嫌が悪くなりましたわ?
次の瞬間、足下が浮き上がり、私は思わずランベルト様の首元に掴まっていた。
「な、なな!?」
そのまま、お姫様のように抱き上げられて、ベッドにそっと下ろされる。
「君をソファーに寝かせるくらいなら、喜んで床に寝る」
「えっ、あの」
「君がこちらを使うように」
そのまま、有無を言わさず、ランベルト様は、ソファーに横になってしまったのだった。
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