推しと二人きりなんて無理ですわ 1
ガタガタと揺れる馬車。
ようやく膝から下ろしてもらえた私。
ランベルト様は、斜め向かいに座っている。
王都周辺は、道が舗装されていたけれど、離れれば離れるほど、道が悪くなって、本当にガタガタとよく揺れる。
(そうよね……。レンガにしても、魔法石にしても、道を舗装するためには膨大な量が必要だわ)
王都以外で道が舗装されているのは、ウィリアス公爵領と高位貴族の屋敷周辺くらいだろう。
(それから……)
チラリと見たランベルト様は、どこかもの憂げに外の景色を眺めていた。
(魔法大国である、隣国と強い繋がりを持つサーシェス辺境伯領……)
聖女と、精霊の加護を受けている我が王国ビルヘルム。この王国で発展したのは、自然のなかに存在する精霊の力を借りた精霊魔法。
一方、自然界に存在する物質やエネルギーを組み合わせて発動する一般的な魔法は、そこまで発達していない。
ランベルト様が使う氷魔法。
あそこまで、巧みに操れる人は、この王国では、たぶんランベルト様だけだろう。
乙女ゲームでも、ほとんどのキャラクターは、剣と精霊魔法を使っていた。
そして、魔法の補助に必須となる魔法石の産出量は、サーシェス辺境伯領が一番だ。
サーシェス辺境伯領の道は、すべて魔法石で滑らかに舗装されているらしい。
「……ランベルト様」
「ルティーナ嬢?」
我に返ったように、こちらに顔を向けたランベルト様。
いったい何を考えていらっしゃったのかしら。
「……魔力が回復してきたようだな?」
「え?」
「……この距離で二人きり。それに、甘くて濃密な魔力……。気を紛らわせていないと、理性を保つのが難しいほどだ」
なぜか、ランベルト様が私の首元をじっと見つめている。
そして私は、またかみついてほしいなんて……。
(……そんなこと思っていませんわ!?)
そういえば、推しと狭い車内に二人きり。
そんな状況にあらためて気がついてしまった私。
みるみる車内の温度が高くなった気がしてくる。
「ランベルト様……」
「ルティーナ嬢? ようやく意識してくれた?」
「え?」
「俺だけが、二人きりだと意識して、君は平気な顔をしているから……」
なぜか、曇ってしまったランベルト様の瞳。
その瞳を見ると、ほんの少しだけ後ずさりたくなるのに、逆に永遠にのぞいていたくもなる。
……それに、香りという意味では、ランベルト様こそ、林檎のように甘くて柑橘系のようにさわやかな香り。よい香りすぎてクラクラするし、のぼせてしまいそうですわ。
(せ、狭い車内に推しと二人きりなんて、想像したこともなかったですわ!?)
確実に意識してしまって、どうしていいかわからなくなってしまったのは、私のほうだ。
沈黙してしまった私たちをよそに、揺れる馬車は、辺境伯領へと向かう。
途中の街に立ち寄るまで、馬車の中は、妙に暑く思えたのだった。
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