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忍び込んででもついて行きますわ 1


 デートは楽しかった。

 たとえ、認識阻害のフードのせいで姿が見えなくても、低くて甘い声のランベルト様に話しかけられるたびに、幸せすぎてクラクラして倒れそうになった。


 ほどよいタイミングで、カフェや食事など、休ませてくれるランベルト様の気遣いのおかげで、倒れずに済んだけれど。


「――――楽しかった」

「っ、私こそ!! 一生の思い出にします」

「……そうだな。一生の思い出だ」


 私の左手首が持ち上げられて、そこにはめられたブレスレットにランベルト様が口づけを落とした。

 その瞬間、空色の石は、氷のように冷たくなった。


「……ランベルト様?」

「魔力を込めておいたから。危険な目に遭っても、俺が来るまでルティーナ嬢に危険が及ばないように」

「……ありがとうございます。でも、危険なことなんてしませんよ?」


 その言葉を告げると、なぜかランベルト様は、目を細めて首をかしげた。

 狼の表情はわかりにくいけれど、これは間違いなく信用されていない。


「本当に? 俺がいない間、危険なことなんてしない?」

「しませんわ……」


 ランベルト様は、明日領地に帰ってしまう。

 私たちは、結局友人のまま宣言を残して。


「さあ、帰ろうか」

「は、はい……」


 シュン、と頭を垂れてランベルト様に手を引かれ、馬車に乗り込む。


「次はいつお会いできますか?」

「――――領地の安全を確保したら。迎えに来るよ」

「安全ではないと言うことですか?」

「俺には敵が多い……。この姿の領主を認めない人間も多いからな」


 安全ではない場所で、一人戦うつもりなのだろうか。

 私には、戦う力はないけれど、公爵家の後ろ盾と、公爵令嬢として培ってきた社交術の記憶はある。

 たしかに、前世の記憶が先立って、周囲が驚くほどのことをしてしまうこともあるけれど。


「――――そうだな。だが、もしまだ間に合うなら、俺の婚約者になってくれないか」

「えっ!?」

「ほかの男にとられたら、たぶん…………」


 その言葉は続けられることはなかった。

 その代わり、どこか曇ってしまった空の色が、私のことを見下ろして、狼の口はどこか笑っているように見えたのだった。


 ***


 結局、ランベルト様には敵わない。

 ランベルト様は、お屋敷に帰ったとたんに、婚約の申し込みをしてくると私に伝えて、お父様の執務室に行ってしまった。

 お父様は、婚約破棄された私のことが心配だと言って、領地に戻るのを延期している。


 一時間も経たないうちに、ランベルト様は戻ってきて、私に一枚の紙を差し出した。

 その紙は、魔法紙でここに書かれた誓約は必ず守られるというものだ。


 細かい字でびっしりと書かれた誓約は、私に有利なものばかりだった。

 そして、すでにランベルト様のサインはされていた。


「えっと……。最初にお渡しした手紙の内容が記載されていませんわ? それに、婚約が解消されるときには、サーシェス辺境伯家の財産を半分くれるとか……」

「当然だろう? 君にとっては、得のない婚約だ」

「…………そんなの、許しませんわ!!」

「え? なにが……」

「どうして、婚約したそばから、婚約解消のことなんて書いてあるのですか!」


 私は、魔法のインクがつけられたペンで、その文章を二重線で消した。

 そして代わりに、お互いを尊重し、末永く幸せに暮らします、と新たな一文を書き足す。


「さ!!」

「さ……。とは」

「まだ、私はサインしていませんので、誓約の修正は可能なはずですわ! 私は魔法が使えませんので、承認の魔力をこの紙に流してくださいませ!!」

「…………馬鹿だな、君は」


 ランベルト様は、そっと婚約の誓約書に魔力を流す。

 瞳の色と同じ、空色の魔力が一瞬だけ誓約書を包んだあと消える。


(ランベルト様の気が変わる前に!!)


 それを見届けた私は、急いで婚約誓約書にサインをしたのだった。


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