好感度を上げてみせますわ 4
抱きしめられていた腕が緩んで、そっとランベルト様の指先が唇をなぞる。
くすぐったくて思わず目を閉じれば、フワフワした手のひらは、そのまま私の頬をなぞった。
「ランベルト様?」
「……行こうか。時間は有限だ」
少しだけ強引に引かれた手。
王都にはめったに来ていないはずのランベルト様は、迷うことなく街中を進んで路地裏の一件の店へと入る。
少し怪しげなその店は、魔道具屋で、見たこともない道具や、古びた本が並ぶ棚の奥に、ガラスのショーケースがあった。
「すごい。こんなにたくさんの魔石が並んでいるの、初めて見ましたわ」
「もともとはこの店のため王都に来る予定だった。ルティーナ嬢から、あの手紙を受け取ったから、少し早めに」
「そうなんですか……」
「この店は、認められた者しか、入れないが、ルティーナ嬢は問題ないようだな」
「…………ん?」
その店を私は知っている。
日替わりでものすごくレアな魔道具屋や魔石が手に入る、条件を満たさないと入ることができないお店。
「おや、新しい客か」
振り返った先には、赤銅色の瞳をした男性が一人。
「ふーん。噂の公爵家令嬢か。聞いていた印象と違う。噂は当てにならないな?」
不思議な雰囲気をしたその人は、カウンターから出てくると、私の顎に手を添えて上を向かせた。
その赤銅色の瞳に覗かれると、まるで心の奥底まで見られている、そんななんとも言えない気分になる。
「ひゃっ!?」
ぼんやりとしていた私は、後から引き寄せられて、ポフンッという背中への衝撃で我に返る。
「……おいおい。これだけでもうダメか」
「ルティーナ嬢に、触れないでくれるか?」
「…………はっ。お前は、一人で生きていくはずだったのにな。聖女にでも出会わない限り」
聖女にでも出会わない限り?
それってまるで……。
胸の中をグルグルとしているのは、重くて痛くて冷たくて、あまりいい感情ではない。
「隣国の王家の血を色濃く受け継いだ辺境伯と、王家のスペア公爵家令嬢か。これはこれで、面白い未来が見られそうだ」
「要件を聞いてもらえるか?」
聖女と出会わなければ、一人で生きていく。
そもそも、ゲームのシナリオでは、私とランベルト様が出会うことはないはずだった。
「ああ。そのブレスレット、渡したのか」
「…………ああ」
「無くすなよ、お嬢さん」
「無くすはずないですわ? だって、一生外しませんもの」
「……そういうことを言うのはやめてくれ」
「ランベルト様?」
「そうだな。ルティーナ嬢が、それを外さない限り、すぐにそばに行けるから。…………一生外さないで?」
「…………!?!?!?」
耳元に寄せられた鼻先、そして甘い甘い私をダメにする声。
ランベルト様に後ろから抱きしめられたままで、クラクラしてきてしまったのですが、私はどうしたらいいのでしょうか?
腕の中から抜け出そうと、そっと押し戻してみた私は、ますます強く抱きしめられた。
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