好感度を上げてみせますわ 3
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空は青くて、緩やかな風が吹く。
絶好のデート日和だ。
「…………」
「……どうして、なにも喋らないんだ?」
「うっ、あの」
そう、私は今、人生全てを捧げてきた推しと、デートをしている。
「……やっぱり、俺なんかと歩くのは嫌になった?」
「なっ! そんなはずないですわ! 緊張しすぎて、うれしすぎて、なにを話していいかわからなくて!」
「そう……。よかった。やっぱり嫌だと思われたら、俺は……」
そんなはずない。それなのに、やっぱり、弱気なランベルト様は、私の手をぎゅっと強く握りしめた。
「はぅ……。極上のモフモフです」
「はは……」
少しだけ乾いた笑い声は、複雑な響きを秘めていた。
顔を上げた私に、フードを被ったままのランベルト様が顔を寄せる。
「ルティーナ嬢の言葉は、この姿でよかったと思わせてしまうほどの力があるな」
そんなことを言いながら、どこか辛そうな声音のランベルト様から受け取ったのは、薔薇と果実の甘い香りのジェラートだ。
ペロリとなめてみれば、冷たくて、甘くて、良い香りがした。
「おいしい?」
「おいしいです。ランベルト様は、召し上がらないのですか?」
「……香りだけで、お腹いっぱいだ」
……香りだけでは、お腹は満たされないと思いますわ?
それなのに、なぜか私が食べる姿をもの憂げに見つめるランベルト様。
モフモフな姿が好きで、ランベルト様ルートの条件を満たした。
でも、フードを被って、モフモフなんて見えなくても、こんなにドキドキ苦しくなるのは、きっとランベルト様が、本当に素敵だからなのだろう。
「こんなふうに、ランベルト様と何回もデートできたらいいのに」
「…………ルティーナ嬢」
今ですわ。今聞かなくては、ランベルト様は、領地に帰ってしまいますわ!
「…………好きです。わ、私では、お友だち以上には、なれませんか?」
本当に勇気を出して絞り出した言葉。
だって、婚約を申し出たあの日よりも、私はずっと、ずっとランベルト様のことが……。
潤んでしまった目に、泣いて困らせたりしないように力を入れる。
「はぁ。反則だろう……」
次の瞬間、なぜかカプリと首元を甘噛みされた。
「ふぁ……!?」
思わず手のひらで押さえた首元。
緩く笑ったランベルト様の瞳は、少し曇った空の色をしている。
「俺には、辺境伯として、領地のために全てを捧げる以外、なにもない。だから、俺は恋人なんて手に入れたら、きっと俺の全て捧げて、どろどろに甘やかして、絶対に離れられないようにどんな手を使ってでも縛ってしまうに違いない」
「ふっ、ふぇ!?」
噛まれた首筋は、全く痛くない。
それなのに、どうしてこんなに、熱くてジンジン痺れるのかしら。
「…………俺から逃げるなら、今しかない。いや、友人としてなら、いつまでも良好な距離を保てるはずだ。領地に帰ったら、手紙を書くよ。そして、友人としてルティーナ嬢が、困ったときにはいつでも助けてあげよう」
ズキンッと、胸が痛んだ。
「俺の本性を知ったら、きっとルティーナ嬢も、離れたくなる。だから、そんなこともう言わないでくれないか」
家族を失い、そばにいる人もいない。
ただ、領地のためにがむしゃらに頑張ってきた若き当主を領民も周囲の人間も、敬うと同時に恐れている。
ひとりでずっと過ごしてきた、ランベルト様の独占欲は、たぶん深い。
「……好きです。ランベルト様のこと。きっと、最後の瞬間まで」
それでも私は、それがほしい。
「ルティーナ嬢は、きっと後悔する。……でも、もう遅い」
次の瞬間、私は息もできないほど、強く抱きしめられていた。
好感度が、MAXになっていることに気がつかずに、さらに上げてしまった結果、ヤンデレ気味に溺愛されるようです。つづく。
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