好感度を上げてみせますわ 2
翌朝、王都にお忍びで行くのにふさわしい、ワンピース姿に着がえる。
白いワンピースに、ところどころに空色の薔薇が見え隠れするフリル。
「天使がここにいます……」
「大げさだわ。マリン」
ランベルト様が、私と一緒に出かけてくれるという返事があったのは、昨日の夕方だった。
侍女視点で、平時から私に対しての評価が高いマリンの意見を鵜呑みにしてはいけない。
私は、鏡の前でくるりと回る。
でも、つり目がちな瞳は、メイクの力でいつもより優しそうに見える。
髪の毛は、ハーフアップにして、後れ毛を巻いてもらった。
悪役令嬢ルティーナは、美しい見た目をしている。いつも、存在感を出そうとか、高潔な印象にするためと、可愛らしい格好をしてこなかっただけで。
(だから、こんな格好だっておかしくはないはず。似合っているはずですわ!!)
平凡な会社員だった以前の私の容姿は、並だった。
そして、ルティーナは、美しいと言われても、かわいいなんて言われたことがもちろんなかった。
「はあ。ランベルト様、気に入ってくださるかしら」
「そればかりですね、お嬢様は」
「それはそうよ。生きる糧だもの」
……お父様のお許しを得るのが最後の難関だと思っていたけれど、ランベルト様は、いとも簡単に説得に成功してしまった。
さらには、一昨日の事件のせいで、責任をとらされた侍女のマリンと、護衛騎士のカールの謹慎も解くように説得してくださった。
そう、ランベルト様は、優しい上に話術にも富んだモフモフ神様なのだ。
「はあ。好き」
その時、ガツンッとドアから音がした。
そして、扉が開く。
「あ、すまない。ドアノブが取れてしまったようだ」
「まあ! 申し訳ありません。このお屋敷は、古いものが多いですから」
「いや、弁償しよう」
……ああああ!!
狼の耳が、ペタンとなったランベルト様も素晴らしいですわ!!
「ど、どうした?」
「いえ、ランベルト様が、素晴らしいと思いまして」
「な、なにが? あ、制御不能なこの握力か!?」
由緒正しいウィリアス公爵家の屋敷は、よくいえばアンティーク、悪くいえば古びたものが多い。
おそらく、タイミング悪く壊れてしまったのだろう。
「ふふ。ランベルト様もご冗談を言うことがあるのですね?」
「……冗談ではなく、最近ときどきこうして、制御できなくなるんだ」
「そうですか。それは、大変です」
どうして、制御できなくなってしまったのかしら? きっとお疲れなのね。
「それにしても、ものすごくかわいいな。本当に、俺と並んで歩く気か?」
見上げたランベルト様は、羽織っていたマントについていたフードをかぶった。
それだけで、背が高い以外は存在感のない男性が隣に並んだような錯覚を受ける。
「あ、モフモフ……」
思わず腕とつま先を思いっきり伸ばして、ランベルト様のフードを外す。
次の瞬間、軽く見開かれた空色の瞳と、白銀の毛並みがあらわれる。
「この姿のまま、デートしたいです」
さらに見開かれた空色の瞳。
なぜが、訪れた静寂。
「……この姿の俺と、王都を歩く気か?」
「わぁ! 想像するだけで、夢みたいですね」
ゲームをしながら、何度想像したことか。
「――――そうだな、いつか一緒に。……だが、さすがに街中では、目立ちすぎるから」
残念なことに、ランベルト様は、フードを再びかぶってしまった。
「さ、行こう」
低くて甘い声は変わらない。
素のままのランベルト様とデートできるのは、好感度は関係なく、ゲームでもシナリオ後半になってからだった。
……こんなに素敵なのに。
ランベルト様の置かれた境遇を、私は知っている。それ以上わがままを言うわけにもいかず、私は差し出されたフワフワ極上のさわり心地の大きな手に自分の手を重ねた。
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次回、デート編。