好感度を上げてみせますわ 1
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ランベルト様に助けていただいた翌日。
私は、意を決してランベルト様の泊まっているゲストルームを訪れることにした。
「う、うう……。緊張しますわ」
王立学園で、代表として挨拶するときも、大勢の前で弁論大会に参加しても、ダンスの見本を披露しても、緊張したことなんてなかったのに。
「迷惑かしら、やっぱりやめようかしら」
ノックしかけた手が止まる。
うつむいて、しばらく思案にくれたあと、深呼吸する。
度胸、度胸ですわ!!
「は、入ったら、笑顔でごきげんよう、というの」
「そうか」
「それから、昨日のお礼をして」
「いや、気にすることはない」
「それから…………」
「まだあるのか?」
「えっ!?」
顔を上げると、扉が薄く開けられて、目の前にランベルト様の顔があった。
「すまない。耳がいいもので、扉が閉まっていても聞こえてしまうんだ」
「えっ、あ。それは……」
見る間に熱くなる頬。
あわてて隠そうとしたけれど、そっと手首をつかまれて、隠させてもらえない。
「あの、昨日はありがとうございました」
「あれくらい、いくらでも」
「……あ、あれ? ランベルト様」
「なんだ?」
「扉が開いていなくても、聞こえるくらい耳がいいのですか?」
「ああ、この姿になってから、鼻と耳は常人と比べようがないほどいい……」
その言葉に、浮かんだのは、先日ランベルト様のご様子がおかしかったときのことだ。
『ランベルト様は、強くて優しくて、本当に……』
『はあ。好き』
……ま、まさか! まさか、聞こえていた!?
「わ、わわわ私っ! 急用を思い出しましたわ!」
「…………そうか。ところで、明後日にはサーシェス辺境伯領に帰ろうと思う」
「…………え?」
「もともと、用事があったから、他の執務を早めて来たが、もう戻らなくては」
「そ、そんな」
どうしよう。時間がないようですわ!
「また、そんな顔をして……」
たしかに、今私はこの世の終わりのような気持ちでいる。
婚約者になるどころか、お友だちにしか、なることができていない。
「……チャンスをいただけませんか?」
「チャンス? それは……」
一瞬だけ、ゆらゆらとランベルト様の瞳が揺れた。それは、拒否を意味しているのだろうか。
「私は、ランベルト様の婚約者になりたいのです」
「……それは」
「っ……お友だちとしての私は、どうでしたか?」
一瞬だけ、ランベルト様に、上から下まで見られた気がした。
「……かわいい」
「えっ?」
「ルティーナ嬢は、俺とは住む世界が違う。輝いていて、かわいらしいひとだ。……友人になれて光栄だった」
友人だということは、認めるのですね?
それなら私、まだあきらめません。
好感度がマイナスにならないうちは、きっとチャンスがあるはずです。
「私、あきらめませんから!!」
青春映画のようなひと言を告げて、私は明日のデートへのお誘いの手紙をランベルト様に押しつけて、部屋から逃げるように走り去ったのだった。
もちろん、お手紙は分厚いです。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。
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