モフモフ辺境伯はおゆずりいたしませんわ 1
短編からいらしてくださった皆さま、ご覧いただきありがとうございます。
連載版は、加筆修正していますが、続きは三話の終わり頃からです。
鏡の前に座った姿。それは、昨日までとどこか違う気がした。
(あれ? 私の髪の毛ってこんな色だったかしら?)
はじめは小さな違和感だった。
それが、ものすごい早さで、鏡の前に座っている私の中でかみ合っていく。
そう、私の髪の毛は黒くて、瞳も黒に近い茶色だったはず。
けれど、鏡に映っているのは、見たこともないほど鮮やかな紫の髪、そして猫のようにつり上がった気の強そうな金色の瞳をした美少女だ。
「――――悪役令嬢ルティーナ・ウィリアス」
そう、目の前にいるのは、乙女ゲームの悪役令嬢、ルティーナ・ウィリアスだ。
混乱しながらも、きちんと残っているルティーナとしての記憶と、よみがえった記憶を照合していく。
「来週が、断罪される予定の卒業式よね?」
あまりに残された日が少ないことに戦慄しつつ、私は椅子から立ち上がった。
こうしてはいられない。
王太子殿下の婚約者である私は、ヒロインである聖女に嫌がらせをしたとして、一週間後に婚約破棄、そして修道院へ向かうことになるのだ。
一つうなずくと、私はペンを取り、猛烈な勢いで一通の分厚い手紙をしたためた。
「お父様!!」
私は、執務室へと飛び込んだ。
幸い、領地ではなく、王都にいらしているお父様。
私の卒業式には参加されずに、明日お帰りになる予定だったけれど、ギリギリ間に合ってよかった。
「どうした。ルティーナがそんなに急いで飛び込んでくるなんて珍しいな?」
白髪が交じった髪は、淡い紫色をしている。
たしかに私たちが親子であることを証明するように、私とお父様の色合いはお揃いだ。
「実は……」
私は、お父様に、王太子殿下が私を陥れようと偽の証拠を集めていることを説明した。
乙女ゲームや記憶のことは、うまく隠して。
ゲームの中では水面下で、断罪や婚約破棄の準備が進んでいたことに気がつくこともなく傲慢なルティーナは断罪されてしまう。
「婚約破棄を撤回させればいいのか?」
「……お父様もお気づきでしょう? 私が王太子殿下と結婚したとしても、形だけの王妃になるだろうということを。そうなれば、一人娘の私しかいないウィリアス公爵家のすべては王家のものになってしまうでしょう」
「たしかにそうだろうな……。しかし、このまま王太子殿下と婚約破棄となれば、ルティーナにこれから先まともな嫁ぎ先など……」
そう、王太子の婚約者が、破談になれば、私に嫁ぎ先などない。
この年になれば、高位貴族のほとんどは、婚約者が決まっている。
でも、私の推しには婚約者がいない。
「大丈夫です!! 私、サーシェス辺境伯様に嫁ぎますわ!!」
室内を沈黙が支配する。
「おい、サーシェス辺境伯といえば、野獣という噂の……。その姿は毛で覆われ、口の中はとがった牙、人とは思えない恐ろしい獣の顔をしているという……」
「そうです。国防の要であるサーシェス辺境伯家のランベルト様! そのお姿のせいで、婚約者は決まっておられないですわよね!?」
ずいっと執務室の机に上半身を乗り出した私。
この乙女ゲームは、聖女認定された庶民の女の子が、王国の美男子たちと恋を楽しむ物語なのだ。
この物語の今後の展開(予定)
弱気だったはずのモフモフ辺境伯様がヤンデレ風味でヒロインを溺愛してきます。
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