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目覚めたら負け犬令嬢④


 どうやらここは二階より上の部屋らしい。それが分かったのは、外からする足音がだんだん上に移動してくるのがわかったからだ。ついでに、


 「ねえフィア、あの子起きたかなぁ? もう三日も経つし」


 「いやいや、さすがにまだでしょ。あれだけの事故に遭ったんだから――って、あ」


 「あっ」


 まだ若い女性とおぼしき声が二つ、板張りの廊下を軋ませながら近づいてきて、ぱたんとドアが開く。


 顔を出したのは、思った通り同い年くらいの女の子たちだった。片方はすらっと背が高くて、鮮やかな紅い髪をポニーテールにしている。活発そうなきりっとした顔立ちで、アーモンド形のネコみたいな瞳は明るい金色だ。


 もう一方はちょっとだけ小柄で、ふわふわの銀髪を肩まで伸ばして、真ん丸の碧眼が印象的な可愛らしい容姿をしている。両方ともいかにもファンタジー世界らしい、おしゃれかつ動きやすそうな服装をしていた。


 ……ところでみなさん、お気づきだろうか。入って来てからそこまでじっくり観察してしまう間、とっさのことに全く身動きできなかったという間抜けな事実に。


 「え、えっと、どうも……?」


 「「わーっ!?!」」


 「ひゃあ!」


 ひとまず挨拶してみたところ、叫んで猛ダッシュで駆け寄ってきた二人に鏡から引き剥がされてしまった。え、なんで?


 「な、な、何なに!?」


 「見ちゃダメー! いやいつかは分かることなんだけど!」


 「今はダメだから! いくら何でも精神的ダメージがデカすぎるから! リラ、あんたとりあえず若旦那呼んできなさいッ」


 「ラジャーっ!!」


 元気よく敬礼を返して、あっという間に走り去る銀髪の子。あまりのスピードに巻き起こる土煙が見えそうだ。一方、全く事態についていけてないわたしはというと、


 「よし。じゃあお茶でも入れるわ、とりあえず座って。ずっと寝てたんだから水分補給しないとね」


 「は、はい。……えーと、なんで鏡」


 「いーから。聞かないで。主にあたしがいいって言うまで」


 「……ふぁい」


 「よろしい」


 さり気なく背中を押してベッドまで連行されつつ聞こうとしたところ、紅い髪の子にものすごい気迫で遮られてしまった。金目って本気で睨むと迫力ハンパないですね、はい。


 大人しく黙ったわたしに頷いて、あちらはさっさとお茶の準備を始めている。さっき駆け寄る前にテーブルに置いていたトレイに、下で用意してきたらしきポットとカップが揃えてあった。いったんふたを開けて茶葉の様子を確認してから、慣れた手つきで注ぎ始める。


 ……あれ? なんか、周りの雰囲気とはずいぶん違う、よく知ったいい香りがするんだけど。


 「…………緑茶?」


 「あ、知ってた? うちの若旦那が大好きでね、その影響でみんな気に入っちゃったから常備してあるの。そこいらのハーブより断然リラックスできるし」


 はい、とソーサーと一緒に渡されたカップには、日本人なら一度は飲んだことがあるだろう飲み物が注がれていた。何回かふーふーやって口に含むと、渋さの後から上品な甘さが広がって爽やかだ。うーん、これはかなりいいお茶っ葉だぞ。


 「あー、おいしい……」


 「よかった。食べれそうだったらお茶請けもあるわよ」


 「ほんと? わー、ぜひお願いします」

 

 こんこん。


 「――フィアー、若旦那連れてきたよ~。入っていい?」


 少しほっとしたところで、タイミングよく外からノックの音がした。さっきぶりの可愛い声に呼びかけられて、残っていた方はすぐに返事する。


 「お疲れ。ちょっとだけ待ってて、すぐ準備するから! ――よし、そんじゃこれ羽織ってくれる? 着心地はいいけど薄いのよね、その寝間着」


 「そういえば、若だんなって?」


 「うちのチームのリーダーで、あんたをここまで連れてきてくれた人。文句なしに穏やかでいい人だから、怖がんなくて大丈夫よ。

 よし出来た、いいわよー」


 これまたトレイといっしょに持ってきていたストールをわたしの肩にかけて、今回はちゃんと説明してくれる紅髪の子だ。それに何とかうなずいたとき、部屋のドアが静かに開いた。



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