目覚めたら負け犬令嬢③
――正式に婚約破棄を言い渡されたライバルは、なんと実家の侯爵家からも縁を切られてしまう。さらに運の悪いことに、勘違いからとある事件の濡れ衣を着せられて、ろくな後ろ盾のない彼女はあっさり国外追放という判決を下される。しかも、話はそこで終わらない。
折悪しく大雨の降る中、元ライバルを乗せた護送馬車が山道を進んでいく。切り立った崖の道を通っていた時、外側の車輪がひとつ、道を踏み外して――
画面がそこで暗転し、『後日、国境沿いの谷底で大破した馬車と、ほぼ白骨化した女性の遺体が見つかった』という文章が浮かび上がるのだ。
『いくら何でもやりすぎでしょ! 制作陣は悪意のカタマリか、そんなにこの子が憎いのかーっ』
判官びいき、という言葉がある。つまりは華々しく勝った方より、負けて落ちぶれてしまった方に感情移入してしまうことだが、初めて王太子ルートのエンディングを見た時のわたしは間違いなくそれだった。しかもこれでも悪い方のエンドじゃないというんだから、ほんと報われない。
小さい頃からハマったマンガや小説なんかでは、哀しい過去のある悪役とか、早めに亡くなってしまう味方とか、そういうちょっと可哀想なキャラクターばかり好きになっていた。そーいう人々というのは話が進む中で、割とあからさまな死亡フラグが立っていくものだが、わかっててもその上で好きになるんだから手に負えない。かくして退場を迎えた際には、悲しみのあまり数日間は再起不能になっていたっけ。
……いや、楽しいんですけどね? 好きなものは好きなんだからしょうがないし、その辺については後悔も反省もしてないので全く問題ないんですけどね!?
とにかくそんなわけで高校生になり、友達から勧められたゲームでまたしても同じ傾向のキャラにハマってしまったのは、もはや必然と言っていいだろう。その後一ヶ月、ひたすらに王太子ルートをやり込んで、どうにかしてライバルを救済できないかとがんばってみたのだが……
「結局全パターン早々にクリアして、これ以上どうしようもないんだっていうのが分かっただけだったっけ……」
すべてが徒労に終わったと判明した時の、あの脱力感たるや。涙を呑んで電源切って、即座にふて寝した私は悪くない。断じて悪くないぞ。――ただ、こうやってイチから思い返してみても、現在の状況に至った原因がさっぱりわからないんだけど。
「ええーと、とりあえず人を探して、ここがどこなのか訊いてみて……」
鏡の中の美人さんとにらめっこしながら、とにかくこれからの方針を考える。部屋の外から人の気配がしたのは、ちょうどそんな時だった。