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野バラを摘んだらごはんにしよう⑥


 「せっかく作られたんですもの、お持ち帰りできるようにいたしましょうね。旦那様がお戻りになるまで、お庭を見てこられるとよろしゅうございますよ」

 まだ違うお花が咲き始めましたから、とにっこりしたアンナさんのアドバイスに従って、ありがたくガラス窓から出られるお庭を散策させてもらうことにした。

 この間もよく晴れていて、あちこちに牡丹や芍薬が咲いていて綺麗だったっけ。元いた現実世界では一応一戸建てに住んでいたけど、両親は共働きでガーデニングなんかするヒマがなかったから、せいぜい芝生を刈るくらいであんまり手をかけていなかった。こうやって毎日お世話をして、丹精込めて植物を育てているんだろうなぁと分かる庭は、歩いていて気持ちがいい。

 『こんっ』

 「あ、白いのが好き? こんちゃんはこの前商会にいたもんね、楽しそうで良かった」

 『こんこん!』

 きれいに整備された通路をとっとこ走っていって、白い牡丹の香りをふんふんかいでいるキツネさん。わたし以上にご機嫌みたいで、ふさふさの紅いしっぽがぱたぱた元気よく揺れている。この子はグローアライヒのどこかから来たはずだけど、こういう和風のお花が好きなのを見てると、元々の生まれ故郷だっていう東邦の記憶がどこかに残っているのかもしれない。

 「……そういえば、ショウさんもあっちの出身なんだっけ。名前とかそれっぽいし、刀使いだし」

 『うん。ああいう剣って、あんまりつかってるひといないみたいだねぇ』

 「そうなの? よく斬れて便利そうなのに」

 『うーんとね、きれすぎてあぶないんだって。ちゃんとしゅぎょうしてないと、うっかり自分が大ケガしそうになるから、あんまりこっちでははやってないの。リラちゃんがいってたよ』

 「へええ。じゃあやっぱりすごいんだ、うちのリーダー」

 『うん、すごいねえ!』『ふぃっ♪』

 そういえば前、一回壊れたときにフィアメッタのとこで修理してもらったって聞いたけど、ああいう刀そのものはお店で扱ってないみたいだった。やっぱり心得のない人がいきなり買うと危ないから、ってことなんだろうか。

 あ、心得といえば、スガルさんみたいな忍者のひとが使う手裏剣やクナイもなかった気がする。なんかいかにも先祖伝来で門外不出の技術っていうか、レアアイテムっぽくてカッコいいなぁ。よし、今度詳しく聞いてみよう。

 若旦那が褒められて、自分のことみたいに嬉しそうな小動物さんたちをなでなでしつつ、ゆっくり通路を歩いていく。さっき教えてもらった通り、垣根を覆うように伸びているつる草とか、少し奥の方に植わっている低めの木とかが花をつけ始めているのがわかった。

 つる草の方は鮮やかな黄色、低木の方は淡い紫の花が可愛くて、とってもいい香りがする。ええと、名前はなんて言ったっけ……

 『――、――……』

 ちょっと首をひねったとき。どこからともなく流れてきた風の中に、かすかな人の声が混ざった気がした。



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