精霊花の守り人⑩
『きゅう!』
「あれっ、うさぎさん!?」
倒れた人のふところから、久しぶりの春ウサギさんがひょっこり顔を出した。さっきからいないと思ったら。
ひとまずほっとするわたしの前で、ウサギさんはちょっと窮屈そうにしながらも無事脱出してくる。草地に降りるとそのままこっちに――と思いきや、長い尻尾でぺふぺふ、と気絶したお兄さんのほっぺたを叩いて首をかしげていた。
なんだか心配するような、いたわるような仕草だ。ということは、珍しいからって捕まったわけではないのかな?
意見を求めて隣を見て、思わずうげっと言葉に詰まった。なぜならショウさん、それはもうめったに見ないくらいのしかめっ面をしていたからだ。マックスさんと踊ってるとこに割って入ったときといい勝負、かもしれない。
(えっなんで!? 初めて見るけど知り合いとか!? いやでも、会ったとたんにこんな顔するってどんな関係!?)
意味もなく焦るわたしをよそに、うちのリーダーはさっとその場にしゃがんだ。かと思ったら、倒れた人の両肩を持って起こすと、軽く気合を入れながら背の中心を膝で思いっきり押す。ぐりっ、とかごりっ、て音がしそうな勢いだ。うわあ、痛そう……
「はっ!」
「ぐえっ!!」
「……よし。目覚めは如何か、清琉殿」
「は、え? ……あれっ、宵丸!? なんで!?」
あ、やっぱり知り合いだった。
謎の技術で意識をとりもどした相手は、声からすると予想通り二十二、三歳くらいだろう。きょろきょろしつつ振り向いた先、絶賛不機嫌モードで仁王立ちする若旦那にも全然ビビらないあたり、そこそこ付き合いはありそうだけど。
「それはこちらの台詞です。このような場所で何をしておられる? あと、いい加減に幼名で呼ぶのはやめていただきたい」
「いやあ、オレ最初に覚えたこと引きずっちゃうからさー。そっちもお兄ちゃんて呼んでくれて全然いいし」
「清琉殿!」
「う゛。……す、すみません、ちょっと依頼で……」
(弱っ!?)
どういう続き柄か知らないけど、お兄ちゃんというからにはあっちの方が確実に年上だ。なのにびしっと遮られたとたん、朗らかを通り越してちょっと、いやかなりチャラいしゃべり方があっさり引っ込んだあたり、結構かなりヘタレなのかもしれない。
いや、そんなことはおいといて。ちょっと気になることがあるんだってば。
『ぶーん♪』『ぶーんっ』『ぶ~~~~ん』
『ご主人、あのおにーさんからハチミツとお酒のにおいがするよー』
『ふぃーふぃ』『まあ』
「や、やっぱり……?」
草地に正座しているおにーさん、改めスガルさん。その周りを飛び回る、どう頑張ってもこの人に懐いているようにしか見えない、橙花蜂の群れがいたりした。




