春ウサギに訊いてみろ⑥
触るってどんなふうにすればいいんだろ、なんて、至って普通なことを考えながらつぼみに手を伸ばす。そーっと撫でた花びらは瑞々しくひんやりしていて、軽く持ち上げるようにするとやっぱり少し重たい気がする。八重咲きのバラに似てるから、たくさん花びらが詰まってるんだろうか……
と。
ぽおんっ!!
「うわあ!?」
突然、目の前のつぼみが弾けるように咲いた。至近距離でクラッカーを四、五個くらいまとめて鳴らしたみたいだ、爆音と衝撃波のせいで頭がくらくらする。しかし何よりも驚いたのは、
『――んー、なあに、もう朝なの……?』
開いた花の中は、予想通り花びらがいっぱいでふわふわだ。そして鮮やかなオレンジピンクの真ん中で、むにゃむにゃいいながら起き上がろうとしている子がいた。
大きさは、わたしが両手ですっぽり包めるくらい。薄紅色で花と同じくふわふわした長い髪、黒目がちで大きな瞳は淡い金色。シンプルな白いドレスの背中からは、虹色に透き通った細長い羽根が生えていた。どこから見ても文句なしに可愛い妖精さん……なんだけど。
『きゅーっ』
「わあ、妖精蜂!? 初めてナマで見た、可愛いー!」
「え、かーさんに話聞いたこのタイミングで蜂が来るとか……って、どしたのイブマリー、顔色悪くない?」
「いや、あの、ちょっと頭が……」
『ふぃっ?』
フィアメッタといっしょに大丈夫? と言いたそうに顔を覗き込んでくるリーシュに、どうにか答えを返しつつ、心のなかで思いっきり叫ぶ。叫ばざるを得ない。
(うわああああデッドエンド回避したと思ったら《《他のバドエンフラグ》》来たーっ!!)
《……ええと、水を差すようで申し訳ないのだけど、フラグって?》
唯一聞いていたアンリエットが、魂の絶叫に冷静なツッコミを入れてくれていたんだけども。完全なる不意打ち展開でパニックになっていたわたしには、残念ながら現代オタク用語を解説できる余裕はなかったのである。




