春ウサギに訊いてみろ⑤
その場に居合わせたみんなからわあ、とかおお、とかいった声が上がる。代表して最初にフィアメッタが口を開いた。
「えーと、木の実……じゃ、ないわよね。つぼみ?」
「こんなにでっかいのは初めて見たなぁ。あれとかリラの顔くらいないか、ほら」
「えー、私そんなに顔丸くないよー」
「別に丸っこいとは言ってないぞ? 抱えたら軽いし。むしろこれみたいに、もうちょいふわっとしてもいいんじゃないか」
「……う~、やせてるって言われるのはうれしけど、プラスアルファがびみょーだなぁ」
手でだいたいの大きさを囲って、それをリラの顔周りにかざしてみたりしているディアスさんである。間接的にほめてもらったリラはそれこそ微妙な顔だったけども。
一同の目の前、通路の行き止まりに現れたのは、見上げるほど大きな何かの木だった。ただここまで見てきたどの植物とも、葉っぱの形とか枝の付き方が違っているし、周りに同じ木が生えている様子もない。
そして何よりも特徴的だったのは、みんなが口々に言っていたこと――枝という枝に鈴なりになった、まん丸で巨大なつぼみだった。大きさはさっきも言われてたが、バスケットのボールが一番近いだろうか。色は付け根の方が濃いオレンジで、先端にいくに従って明るい黄色へ変化している。淡い木漏れ日を浴びてゆらゆらと重そうに揺れる様子は、まるで中に何か入っているみたいだ。
『きゅうきゅう』
「え、なあに? どうかした?」
『あのね、この木のてっぺんにあるつぼみにさわってほしいんだって。そしたらいいことあるよって!』
「そっか、ありがとティノくん。木が細いから登るのはやめた方がいいよね……よし、『天理反転』」
ぎゅいんっ。
同時通訳を受けて生得魔法を発動させるのと同時に、つぼみの木が大きくしなって梢を地面に近づけた。横から見てるとちょうどお辞儀をしているような状態で、ちょっとおもしろい。そういや最初に野宿したとき、こうやっていろいろ実験して遊んだなぁ。
間近にやって来た木のてっぺんには、ひときわ大きくて立派なつぼみがついている。色合いもほかのに比べて、ほんのちょっとだけピンクがかっていて上品な雰囲気だ。咲いたらとっても綺麗だろうな、これ。




