邂逅−2
綾奈がぶつかって謝罪したのにもかかわらず、相手は一言も発しない。
怪訝に思った二人は、改めてその人物を見る。
そして目にしてしまった。
その人物の異様な姿を。
「つ、の…?」
そう、その人物の額には、通常、普通の人間にはついていないようなもの。
ツノが付いていた。
それだけではない。
そもそもの体躯が、普通の人間にはあり得ない。
筋肉は異様に膨れており、ガタイが良すぎる、という一言では収められる範囲ではないのだ。
そして大きな手には、長い、鋭い爪。
まるで、漫画などで見る、“鬼”そのものだ。
そしてそれは、こけた綾奈と、その綾奈を立ち上がらせる為に、手を貸していた和人を一瞥する。
「な、んだ…。」
二人を見たそれは、手を、爪を振り上げる。
和人が、綾奈を庇うように抱え込む。
その時。
静かで、凛とした声が耳に聞こえる。
「…、顕現、桜華。」
風が吹き込む。
目の前には、どこから入り込んだのだろうか。
桜の花弁が舞う。
音もなく、目の前に祈里が割り込む。
その瞬間、鮮血が散る。
ゴトリ、と音を立てて何かが落ちる。
見ると、それは鬼の腕だった。
「ひっ、」
和人の腕の中からそれを見た綾奈が、顔面を蒼白にし、怯える。
「結城くん、綾奈ちゃんを離さないで、下がっていてね。」
落ち着いた祈里の声が響く。
ヒュン、と祈里は持っていた、日本刀だろうか、それを一度振る。
その姿は、まるで舞台でも眺めているかのような感覚に陥らせる。
「私と出会わなければ、貴方は生きれていられたのにね。」
そう呟くと、鬼が吹き飛ぶ。
それを追いかけて、祈里が跳ぶ。
残された二人は、ただ、今起きた出来事が信じられず、呆然とするしか無かった。