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知らない場所、忘れた記憶−2

極力物音を立ててしまわないように、ゆっくりと二人に近づき、顔を覗いてみる。

その顔にはやはり、記憶にない。

どうしたものかと考えていると、男性が目を覚ます。


「う、ん…、此処は…?」

「あ、目が覚めましたか?気分は如何ですか?」

「だ、いじょうぶです…。あの、貴方は?」

「私は上倉 祈里といいます。敬語は必要ありませんよ。」

「…じゃあお言葉に甘えて。俺は結城 和人だ。上倉さんも敬語は使わなくてもいいよ。」


結城と名乗る彼は、人の記憶に残りそうな、整った顔立ちをしている。

黒い髪で、モデルのような見た目をしている。


「そう?じゃあそうさせてもらうわね。結城くんはこの場所知ってる?」


結城と話しながら、着ていたカーディガンを脱ぎ、未だに寝ている女性にかける。

寝ている彼女は少し派手な見た目をしている。


「全く記憶にない場所だな。なんでこんな所にいるのかも分からないし、どうやって来たのかも分からない。」

「そうよね。私もなの。目を覚ましたら此処、というか隣の部屋で目を覚まして…。」

「隣で?他に人はいないのか?」

「ええ、私一人だったわ。他に人がいたような感じも無かったから、私だけ別の部屋だったみたいね。」

「上倉さんだけ一人だったのはなんでなんだろうな。」

「そうね…、それも気になるわね…。ああ、そうだ。」

「ん?どうした?」

「あのね、結城くんは、」


と、話していると女性が身動ぐ。


「あら、起きたかしら?」

「ん、ん…?きゃあ!!」

「ひゃ、」


覗き込んでいたからか、驚かせてしまったようだ。

女性の驚いた声で、自分も驚いてしまった。


「おっと…、大丈夫か?」

「あ、ありがとう。」


驚いて体勢を崩してしまったのを結城に支えられた。


「あ、あの、貴方たちは誰ですか?というか、なんであたしこんな所にいるんですか。ここはどこなんですか。」

「落ち着いて、私たちもよく分からないの。…驚かしてしまって、ごめんなさい。」


知らない場所で目が覚めたと思ったら、知らない人間が顔を覗き込んでいたのだから、驚くのも無理はないだろう。

怯えて、パニックを起こすのも当然だ。

さて、どうしたものか。


「どうするんだ?上倉さん。彼女怯えきっているが。」

「そうね…。貴方、お名前は?…私は上倉 祈里。私の隣にいるのは、」

「結城 和人だ。俺たちもついさっき目が覚めたばかりで何も分からないんだ。君と同じ状況だ。」

「…、花江 綾奈、です…。」


名乗った事で、少しは警戒心が解けたのだろうか。


「体調に異変はない?もしどこかおかしなところがあるならもう少し寝ていた方がいいわ。」

「大丈夫です…。あの、このカーディガン…。」

「ああ、私のよ。必要なら持っていてもいいわよ?」

「あ、ありがとうございました。あの、お返しします。」

「ふふ、ありがとう。」


派手目な子かと思えば、とても礼儀正しい子のようだ。

綾奈の顔、いや、雰囲気だろうか。

心が、本能が知っていると、安心すると訴える。


「そういえば、さっき上倉さん、何か言いかけてたよな?」

「ん?ああ…。結城くん、綾奈ちゃん、二人は何か、忘れている事は無い?なんでもいいの。憶えていないといけない事のような気がするのに、忘れてしまっている事。」

「忘れている事、ですか?ん、と…。」

「そう言われてもなぁ…。しかし、そう言うってことは、上倉さんは何か忘れているのか?」

「ええ、そうなの。私の場合は、とっても大切な人。大切な人なのは分かるんだけど、それが誰なのか。どんな人なのか、私にとってどんな存在だったのか、何も思い出せなくて。」


目を閉じながら、考える。

とても大切な人だったのに、忘れてしまっている私は、相当酷い女だろう。


「悪いが、分からないな。そもそも、忘れてしまっているのかどうかも…。」

「あたしも、分からないです…。ごめんなさい…。」

「ああ、いいのよ。普通は分からないもの。気にしないで。」


二人に心当たりがないのなら、尚更、自分の記憶から消えてしまっているあの人は。


「さて!」


パン、と手を軽く合わせると乾いた音が鳴る。

…空気が少し、軽くなる。


「ここから出るヒントを探す為にも、そろそろ部屋を出ましょうか。」

「そう、ですね。」

「そうだな。」


三人で部屋を出る間際、私は一瞬、振り向く。

そして、少し先を歩く二人を追った。



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