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知らない場所、忘れた記憶

「う…うん…。」


ふと、目が覚めると、私は見覚えの無い和室にいた。


「こ、こは…、どこ…?」


頭が痛い。目眩がする。体が重い。

部屋には陽が射し込んでいるはずなのに、体の底から冷えているのかと思うくらい寒い。


何故、自分はこんな所にいるのだろう。

そう、うまく働かない頭を使いながら考えていると、何かが目の前にふわりと舞った。

手を伸ばすとそれは、


「さ、くら?」


その花弁が舞ってきたのだろう場所を見ると、襖が少し開いていた。

立ち上がり襖を開けると、その先には庭があり、立派な桜の木が立っていた。


八重桜。


あの人が好きだと言っていた桜だ。


「あの人…?あの人って誰…?」


目眩がひどくなる。

あの人とは一体誰なのだろうか。

本能が、心が、思い出せ、決して忘れてはいけないと、そう叫ぶ。


桜の木に触れる。


何故。

自分の名前も、自分を取り巻く周りの事も、・・・自分の“力”の事も。

何もかもきちんと憶えているのに、あの人の事だけ分からない。

ただ、忘れてはいけなかった人だという事しか、分からない。


涙が勝手に流れる。

足に力が入らず、桜に縋りながら崩れ落ちる。


「…っふ、」


何が悲しいのか。

何もかもが分からないけれど、少しだけでいい。

少しだけ、泣きたい。


桜の幹に額を当てながら、私は少しの間泣いていた。



────────────



どれくらいの間泣いていたのだろう。

数分だったのか、数十分だったのか。

分からないが、少しだけすっきりした。


「此処で泣いていても何も変わらないわ。まずは今居るこの屋敷がどこで一体どうなっているのか確認しないと。」


頭もちゃんと動くようになった。

どうすれば忘れてしまったあの人の記憶を思い出せるのか、手がかりを少しでも掴む為に、少し歩いて廻ろう。


自分が目覚めた部屋に戻り見回してみるが、特に気になる物はない。

庭から屋敷を見た感じでも、相当広い。


「まずは、隣の部屋に行ってみましょうか。」


スッと、廊下に続く襖は、なんの抵抗もなく開く。

使用人でもいるのだろうか、これだけ広いのに埃ひとつ落ちておらず、綺麗に掃除されている。

右隣の襖に手を掛ける。

開ける前に耳を澄ますと、気配がする。

微かに人の寝息が聞こえる。


慎重に、極力音を立てないよう襖を開けるとそこには。


二人の男女が、背を向け合って寝ていた。



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