その目が伝えるのは
─チリン
目を開けると、そこには、もう殆ど消えかけている鬼の姿。
(そう、か。あれは、)
懐かしい記憶。
私が一番、愛されていたのだと、そう思うことの出来ていた。
一番幸せな時期の記憶。
(まだ、彼が誰なのか、とか、名前すらも、思い出すことは出来ないけれど。)
それでもこの胸は、先ほどよりも寂しさを感じていない。
鬼が完全に消えたのを見届けて、待たせていた二人のもとへ戻る。
(拒絶、されないかしら。)
「結城くん、綾奈ちゃん、怪我はない?」
「あ、ああ…。大丈夫だ…。」
綾奈は俯いている。
怪我がないか確認しようと、手を伸ばす。
しかしその手は、
─パンッ
「あ…、」
その目は恐怖を宿していて、そしてその恐怖の対象はおそらく。
「あ、ち、違、ごめんなさ、「ごめんなさい。」」
(これ以上怖がらせないように、少し離れた方がいいわね。)
「怖がらせてごめんなさい。怪我はない?大丈夫?」
「なんで、祈里さんが、」
「謝るのかって?そんなの当たり前でしょう。女の子を恐ろしい目に合わせたんだもの。」
私は慣れているけれど、普通こんなこと遭遇することはないのだから。
「なあ、質問いいか。」
「ええ。」
「さっきの“あれ”は、一体なんなんだ?」
結城の腕に収まっている綾奈が震えた。
「そう、ね…。わかりやすく言えば、鬼。あるいは、妖や化物と呼ばれるもの。」
「名称がいくつもあるということは、見た目はあれ以外にもあるのか。」
「ええ。物語で見るようなものを思い浮かべると簡単ね。」
「そうか。君のさっきの、鬼を倒した力は、」
なんと説明するべきなのか。
本来は簡単には信じてもらえないが…。
「…私の一族?にはああいった、この世のものでは無いものを倒す力を持って生まれることがあるの。」
「それは…。」
「ふふ、どんな反応も慣れているから気にしないで。どうしても気になるようなら、此処を出るまでの用心棒とでも思ってくれたらいいわ。あれがもう出て来ないとは言い切れないもの。」
「そんなのは、いやです…。」
え、と…。
(それは、どう受け取ったらいいのかしら?)
拒絶か、それとも。