霧雨舞うなか
前回の後日談的な話です。
次の話へのインターミッション
昨日までの晴天とうって変わって、
霧雨舞うなかにボクたちはいた。
いつも、誰かのお葬式と言われて
思い浮かべてしまうのは、
霧雨舞うなかに立ち上る火葬場での紫煙。
昨日のお通夜からお灯明守りをしてたためか、
伯父さんたちは眠そうで、今日駆けつけた父が
忙しく動いていた。
ボクたちはただ呆然として、元気だった
祖母が亡くなった理由も聞かないまま
みんなのそばで話を聞いてた。
お祖母さんの生まれは大きな神社で
宮司さんの娘さん、巫女さんもしてたらしい。
文武両道で成績も良く本人は医師になりたかったらしい。
時代の影響もあるのか、若くして結婚したけど。夫婦仲は良かったとか。そりゃ10人も産んでたらねぇ。
若い時からお父さんの宮司さんのお手伝いをしてたらしく、御守り作りが上手だったって。それも効果抜群の。
伯父さんも、伯母さんも、もらった御守りを愛おしそうに取り出してた。
「だからなんやろか。不思議な頼みごともされたりしたんやねぇ」
「お母さんも普通の顔して、あたってはったなぁ」
不思議な頼みごと?「どんな?」声に出てた…
「病院やからか、「亡くなった人がそこにいる」言う同室の患者さんとかいてな」
「そうそう、お母さんが御守りあげたらピタっとおさまってん」
効果抜群です。
「あとはあれやな、神隠し」
「「神隠し!?」」
「そや、もう20年ちかく前になるかな…」
当時、「神隠し」なるものが流行ってたらしい。
流行ってると言う言い方もアレなんですが。
よくある都市伝説的な、一カ月とか一年行方不明になり、ある日突然帰ってくる。パターンのやつですね。
祖母はそれを解決したらしい。
行方不明になったのはある老舗旅館の息子夫婦の子供、当時まだ4才になるかならないかだったらしい。
ある日突然、屋敷の中で行方不明になったそうな。
警察はもちろん、探偵事務所や興信所、はては霊能者と呼ばれる人なんかも、四方手を尽くして探したのだが見つからない。1週間をすぎるか過ぎないか、長期戦を覚悟したとき、祖母の噂を聞いたらしい。
祖母に話を持って来たのは祖母のお父さんの宮司さん。藁にもすがる思いで神社に来たらしい。
「何とかしたってくれへんか?」
祖母も思うところがあったのか、2つ返事で応えたらしい。
祖母が向かった先はその屋敷。一通り見たあと首を振ってため息をついたという。
「ややこしいことやな…」
ひとりごちたあと、屋敷の主人に向かい、
「ご主人、屋敷の庭に御神木があるやろ、最悪御神木を倒さないかん、ええか?」
「もちろんや、それであの子が戻ってくるならやすいもんや、あの子は今どこにおるんや?」
「はざまにおる。一種の結界みたいなもんや。」
「はざま…⁈」
「あの子も相当同調しやすかったみたいやな。運のわるいことや」
「生きてるんか、あの子は生きてるんか?」
「生きとる、絶対にたすけたるから待っときや。今からはざまに門を開く。」
そう言い放ち、祖母は御神木に札を貼っていく。
御神木に正対し、呪をとなえていく。
「長期戦にはしとうないな…」
そう呟いたとき、空気が張り詰めて来ているのを感じ
「いかん、みなはなれとき!」
祖母が叫ぶと同時に、御神木がバリバリバリと避けて倒れた。
「何が…」「雷か…?」
白くもうもうと煙立ち込める中、幼な子を抱えた祖母が立っていたそうな。
「間に合ったか…?」安堵の顔を浮かべて。
「衰弱してる、一旦ウチの病院に引き受けさしてもらいますゆえ」
皆が呆然とするなか、とにかくその子が助かったのだと気づいた若夫婦は歓喜の泣き声をあげていた。
病院に迎えられたその子は体調も持ち直し、元気に退院して行った。祖母とは助けてもらった恩や、祖母の不思議な力に興味があったのか、それから20年の付き合いらしい。
「昨日のお通夜にも来とったな」伯父が言う。
「今は、大学の研究員やって話や」
「元気になって良かったわ」
伯母さんたちとも旧知の中なのか口々に言う。
ボクは話を聞いて冷や汗がびっしょり。
今の話なに?お祖母さんって何者?
お祖母さんに助けられた「その子」と会えるかなと期待したけど、お葬式の時には会えず。
ただ、出棺の花の中に、嗅いだことのある匂いのする花がまじってた。
霧雨舞うなかその香りも紫煙とともに天上へと……
最後まで読んだ頂きありがとうございます。