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ここは深い暗闇、俺は根拠のない希望に縋る。

作者: 膝野サラ

高校入学後、一人も友達ができないまま一年が経とうとしている。

電車を乗り継ぎ片道一時間かけて学校に行っては誰とも一言も話さないまま、また一時間かけて帰るだけの日々が続いている。学校に居場所がない事は言うまでもない。



小中学生の頃もあまり友達の多かった方ではなかったが一応友人は居た。まあ学校の休憩時間にスクールカースト下位同士で一緒に話す程度の友人だった為、今では全くもって連絡も取っていない。

高校には小中学校の同級生は殆どおらず、友達作りは一からのスタートとなった。でもまあ入学して一週間もすれば友達ができるだろうと思っていた。

誰かが話しかけてくれて仲良くなれると思っていた。

大誤算だった。


入学して一ヶ月が経っても俺は誰とも一度も話せていなかった。

その頃、さすがにまずいと勇気を出して隣の席の女の子に授業の問題が分からないふりをして肩をトントンとたたき話しかけた。話しかける時、鼓動の速度が異常なくらい速くなった。

その隣の席の女の子は急に話しかけられた事に少し驚きつつも小さな声で丁寧にその問題を教えてくれた。でもそれだけだった。それ以上どうする事もできなかった。

もはや今ではその話しかけた女の子が誰だったかも忘れてしまった。

何かしらの事を分からないふりをして話しかけるという行動をそれからも数名の人に何度か行ったが結局そこからの進歩は一つもなく、ただ無駄に鼓動が速くなるだけだった。

そして俺は話しかける努力を無駄と判断し諦めてしまった。しかし現状に満足は全くもってできない訳で、友達を作る為に次は部活に入った。以前から興味があった軽音楽部に入部した。

しかし遅れて入った事もあり既に居場所などなく、結局最初の一度だけ行って居場所が無い事に気づきそこからは幽霊部員状態だ。部活に顔を出した時もまた鼓動は果てしなく速くなっていた。そしてその努力と勇気と鼓動の速さがまたもや無駄だったと分かった瞬間、激しく落胆した。

そして俺は努力をやめた。勇気を出すのをやめた。それ以降、鼓動が速くなる事もなくなった。

そして今でも友達は一人もいないし、先程も言ったように毎日一言も話さず帰る日々が続いている。




参った事に俺には家にも居場所がない。

我が家は俺、兄、母の三人家族で父親は俺が中学生の頃に離婚して家を出て行った。

それまで父親の部屋はゴミ屋敷と化しており、煙草のにおいも相まって中々に酷い状態だった。

ようやく父親が出て行きゴミと汚臭がなくなったかと思えば次は入れ替わるように兄貴の部屋がゴミ屋敷になった。以来三年程ずっと兄貴の部屋はゴミ屋敷である。

夏には二日に一匹はコバエが出てはイライラする日々が続く。

当然俺も黙っていない。しかし兄貴は俺の出会った生物の中で一番に性格が悪く、何度注意しても逆ギレされ面倒の臭い口喧嘩になるばかりであり挙げ句の果てには理不尽な煽りなども行うようになった。

俺の注意には聞く耳を持たない為、時期に俺は母親に兄貴に注意するように頼むようになるが、この母親にも問題があった。

母親はあまりにも息子に対して甘過ぎるのだ。

“息子”と言うくらいだから俺にも甘いのだが、年が経つに連れ兄貴への甘さが際立つようになっていった。

俺が何度兄貴に注意してくれと母親に頼もうと、母親は柔らかな口調で少しだけ注意するだけで、当然性格の悪い兄貴はそんな事で片付ける訳もなく、今でも兄貴の部屋はゴミ屋敷のままである。

この経験により、

葦舟ナツさんの「ひきこもりの弟だった」という作品を読んだ時には、理不尽な兄とそれに甘い母という登場人物などの共通点や、主人公の感情などに激しく共感できた。それほどまでに理不尽でイカれた家庭なのだ。





生きている理由などない事は言うまでもない。

しかしまあ死にたいと思う訳ではないし、むしろ死にたくない。

だから今日も俺は、いつかこの深い暗闇から誰かが助けてくれるだろうという、根拠もクソもない希望に縋りながら生きている。





友達は未だにできていない。

学校で話す事も基本全くない。

最近唯一学校であった進展といえば、すごく小さくもはや小さすぎる進展ではあるが、ある一人の女子生徒と意思疎通をする事が増えた事だろうか。

意思疎通っていうのはまあ会話はないけどコミュニケーションは取った的なそういう事を俺は意思疎通としている。

その女子生徒と交わす意思疎通とは、授業終了後に掃除の時間があり、その掃除の時間にロッカーからほうきを出す時、先にロッカーに着いたその子が俺にほうきを渡してくれたり、俺がほうきではき終わったのを見て、俺の方へ手を差し出し俺のほうき片付けて行ってくれたり。それに対し俺はコミュ障を発揮し声は発せずとも、コクリと頭を下げ礼をした。そのお礼として次の掃除の時には俺がその子にほうきを渡し、掃除が終わればその子のほうきを片付けた。そして女の子も俺にコクリと頭を下げ礼をしていた。その次はその子が俺にほうきを渡し、その次はまた俺がその子にほうきを渡しと、最近これを何度か繰り返している。それを俺は嬉しく思っていた。

自意識過剰だろと言う人も居るかもしれないが、俺が嬉しく感じている事はそういう事ではない。

その子が俺のためを思ってわざわざほうきを渡してくれたり片付けてくれたりしているとかそういう事は別に思っていない。

たまたまから始まった習慣的な事だという事は理解している。

俺が嬉しく思っているのはただ単純に頻繁に意思疎通をできているという事実である。

入学してから意思疎通すらも俺はそこまでできていなかった。しかしこのほうきを渡し渡され片付け片付けてくれコクリと頭を下げコクリと頭を下げられるという習慣的に意思疎通をできているという事実を単純かつ純粋に嬉しく思っているのだ。

だからその女の子がどんな人かなんて全くもって知らないが、そういう点においてとても感謝をしている。

その子の名前は何だったか、名前も覚えていない。

その子は俺の名前を知っているのだろうか。




先程話した兄貴ゴミ屋敷問題においても、良くない進展があった、いや進んでないから進展ではないのかな。

この数年間の怒りがここ最近爆発して、ゴミを溜め理不尽に煽る兄貴とそれを甘やかす母親に対し俺は何度も怒鳴るようになった。声を枯らしても怒鳴り続けた。そうしないと変わらないと分かったから。

でも結局そうしても変わらなかった。

何度怒鳴っても兄貴は俺を嘲笑い、母親は甘やかす事に懲りず、時には俺を悪者扱いする事もあった。


その日、俺はまた怒鳴って声を枯らしていた。

そして限界が越えに越えて、ついには兄貴を殴った。

当然兄貴も殴り返してきた。

少しして割り込んできた母親は俺と兄貴に向かってこう言った。


「もう二人ともやめなさい」


胸糞が悪くなり、ふざけるな。そう思った。

お前も一因なんだよクソが。ふざけるな。そしてまた俺は怒鳴った。

母親に怒鳴ってる内に兄貴は俺を嘲笑いながら外へ出かけて行った。


疲れるまで怒鳴った後、冷静になり少し考えて、もうこれ以上同じ事を繰り返していても無駄だ、変わらないのはもう無理だと思い俺は母親に契約を持ちかけた。

一定の期間までに片付けなければ兄貴を追い出せという契約だった。

当然この手の話は幾度となく母親に持ちかけたがその度に母親は言い訳に次ぐ言い訳で兄貴を甘やかし、俺はイライラするだけで終わってしまっていた。

でも今回こそはと、俺はイライラが限度を完全に越えようと母親にその契約を持ちかけ続けた。

当然またずっと兄貴を甘やかす為の言い訳を言い続けていたが一時間以上に及びも粘っているとかなりの渋々ではあるがその契約を受け入れた。

しかしまあ兄貴は仕事をしているからと甘い母親は長期休暇になるまで待ってあげてなんていう馬鹿げた事を言った。しかしそれは仕方なく俺は受け入れた。

そして「◯月◯日までに全部片付けなければ追い出す」という契約を交わした。

兄貴にも母親からその話は伝わっているようだった。


正直俺はどっちに転べど少しは楽になるだろうと思っていた。

もし兄貴がゴミ屋敷を片付ければ嫌いな兄貴を追い出す事は出来ないがゴミは無くなる。

もし片付ける事が出来なければ兄貴はこの家を出て行く。どっちに転べど楽にはなるだろうとそう思っていた。俺的には後者の方が嬉しい。

そしてさすがの甘すぎる母親でも今回は甘やかしたりなんかしないだろうとそう思っていた。

でもこれもまた大誤算だった。



兄貴は多少ゴミを片付けただけで結局最後までゴミを片付ける事はなかった。

その契約の期間を迎えてもなおまだ片付いてない兄貴の部屋を見て俺はガッツポーズをした。

ようやくこいつを追い出せると歓喜であった。

本当の事を言えば母親とも一緒に住みたくなく、一人暮らしでもしたいが、働いてる訳でもなく一人暮らしをできる分際ではない事は承知の上なのでそこはわがまま言えない。

しかしようやく兄貴を追い出せるとは素晴らしく嬉しい事だった。


その歓喜を持ったまま学校に行きまた一言も話さす帰ってきた。

家に着くといつも通り母親がリビングの椅子に座ってテレビを見ていた。

そして俺は母親に言った「これであいつは追い出しだからな」

すると母親は「でも少しは片付けたでしょ」なんて事を言った。

その言葉に俺は呆れて落胆すら覚えた。

また甘やかすのか。。そう思った。

必死に討論をした。全部片付けたらっていう約束をしただろ。全然片付いてないだろ少しだけだろ。

でも結局母親はまた兄貴を甘やかす為のあらゆる言い訳をしていた。

今回こそは甘やかしたりなんてしないと思っていたのにとまた酷く落胆した。

「ふざけんな」何度もその言葉を口にしたが、母親は言い訳を続けるだけだった。

そして母親がある提案をしてきた。

「とりあえず三人で違うところに一回引っ越して、その次の家でもゴミ屋敷になってしまって片付けなかったら、別々に暮らしましょ」なんて馬鹿げ過ぎている提案をしてきた。


まず「三人で引っ越す」意味が全く感じられないと俺が母親に言うと、「いや心機一転できるかなって」というまた意味の分からない事を口にした。

この人は頭がおかしいなんだなとまた実感した。

そして「次の家でも」という言葉に対し、

「次ってなんだよ。今日までに片付けなければもう追い出すって前に約束しただろう。あの約束は意味なかったのかよ」そう俺が怒鳴ると母親はまた何か言い訳をした。内容はもう覚えていない。落胆し過ぎて頭が追いつかなくなっていた。




しかし俺はこの家庭から一つだけ学んだ事がある。

本来、正しい事を言っている人間が正しいというのは言うまでもない事だ。

しかし正しい事を言っている人間よりも正しくない事を言っている人間の方が多数であれば、その正しくない事が正しい事と化してしまうのだ。例外はたまにしかない。

俺の場合、兄貴と母親が世間的に見ておかしいであろう。しかし正しい俺一人対正しくない兄貴と母親の二人であれば、その多数をひっくり返すほどの力がない俺はどれだけ理不尽であれど負けてしまうのだ。

俺はこの狭い世界での理不尽な多数決で負けたのだ。




もう無理なのか。もうずっとこのままなのか。結局何も変わらないのか。


落胆をし過ぎてもう母親と話す気にもなれず、自室に戻り布団に潜って頭を抱え心の中で叫んだ。





友達もいなけりゃ家庭もこの有様。

どうしたらいいんだ。何処にも居場所なんて無いじゃないか。

早く誰かこの深い暗闇から俺を救い出してくれと、

また根拠もクソもない希望に縋ろうとしたが、今の現状を考えて本当にそんな人が俺に現れるのかと現実的な事を考えてしまった。今まで背を向けていた根拠と対面してしまったのだ。

そして答えは『NO』だった。


友達も居ない交流関係なんてもはや無い。そんな状況の俺にそんな人が現れる訳はないであろう。

将来何かが変わって救い出してくれる人が現れるかもしれないなんて、あまりにも妄想が過ぎるだろ。そんなの奇跡じゃないのか。



どうしたらいいんだ俺は。





孤独だ。





いつも以上に憂鬱な朝が来た。

もはや死にたいと思ってきてしまっているが死ぬ勇気などない。よって今日も生きて一言も話す事のない学校に電車で一時間かけて行ってはこの帰りたくない家に電車で一時間かけて帰るしかないのだ。



学校の支度を終えてドアを開けた。

眩しい太陽の光が差し込んできた。晴天だ。それすらも憂鬱に感じた。

世界の物事は基本自分の今感じている感情によって捉え方が変わってしまうのだろう。

例えば毎日が楽しい人が俺と同じこの眩しい太陽の光と晴天の空を見たらどう感じるだろうか。

とても素晴らしく感じるだろう。

そうしてまた感情の明暗の差が広がって行くのだろう。





その日も当然のように一言も話さないまま授業が終わり、掃除の時間になった。

昨日の一件もあり、もう何も考えられず感情も殆ど無だった。

何も考えず俯きながらふらふらとほうきの入っているロッカーへと向かった。

そしてロッカー前で顔を上げるとあの女の子が居た。

そしてその子はいつも通り俺にほうきを手渡した。

心が救われるまででもなくとも、少しだけ楽になった気がした。勿論それでも充分に苦しいが。

もう自意識過剰でも良い。とにかく俺を僅かでも見ててくれている人が居るという事を勝手ながらに実感し、少しだけではあるが楽になった。

そして俺はまたその女の子に深く感謝した。

いつもはコクリと頭を下げるだけのところを、感謝のあまり俺は、



「ありがとう」と声に出して礼を言っていた。



女の子は少し驚いたようなリアクションをした後、



「私こそいつもありがとう」



小さな声でそう言った。



聞き覚えのある声だった。

前に聞いた事のあるような声だった。この子の声を聞くのは初めてのはずなのに。

聞き覚えがあったのだ。その小さな声に。





高校に入学してから一ヶ月の時、未だに一度も誰とも話していない現状をまずく思い、問題が分からないふりをして隣の席の女の子に勇気を出して話しかけた。

肩をトントンとたたき俺はその女の子に話しかけた。

鼓動の速さは異常なくらいに速かった。

そしてその女の子は少し驚きながらも小さな声で問題を教えてくれた。その小さな声で。



でも結局それきり何も起きず、あの時話しかけた人が誰だったかなんて忘れていた。

この子だったのか。



どれくらいの間、思考を巡らせて無言でそこに立っていたのだろうか。

気づけばその女の子は自分のほうきを片手に俺の顔を覗き込みかけていた。


俺は焦って急いで「いえいえ、あの、こちらこそ」と言った。


するとその子は少し微笑んでまた小さな声で言った。



「そうじ行こっか」



「うん」





掃除が終わるとまたその子は俺の方へ手を差し伸べ、ほうきを受け取ってくれた。

そして俺はまた声に出して言った。


「ありがとう」


女の子がまた小さな声で言った。


「いえいえ」







それからのその子との関係は少しずつ進展し、ただ意思疎通を交わすだけの関係から、頻繁に会話を交わせるくらいの関係になっていった。






いつか俺をこの深い暗闇から救い出してくれる人が現れるかもしれない。そんな根拠もクソもない希望に俺は縋っていた。いや、結局今もまた縋っている。



あの女の子は俺をこの深い暗闇から救い出してくれるかもしれない。この孤独もまた時期に消えるかもしれない。勝手ながらにそう思った。


いや、これも根拠のない希望に変わりはない。

喜ぶのはちゃんと結果が出てからにしようか。

でも、やっぱり縋ってしまう。









ここはまだ暗闇の中、俺は未だ根拠のない希望に縋る。

でももう少しでその根拠を見つけ出せそうなんだ。

これの根拠は少しだけある。

最後まで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m

そういえばまたもや全然更新できておらず2019年初の投稿となりました。あけましてどうも。


今回は孤独を一つの大きなテーマとし書かせていただきました。仮題名「孤独」であったくらいですから。(結局書いている内に変わりましたが)

どういう最後にするか迷いましたが、やはりどうも最近の僕はバッドを交えながらのまだまだ先のあるハッピーエンドを望むようです。


この話は僕の現実での問題をモデルにした点もありますので、なおさらハッピーエンドにしたかったのかもしれません。

僕もこういう最後を迎え、暗闇脱出の希望の根拠を探し見つけ、新たな物語を始めたいものです。


この小説は偶然か、割と書き出してからすぐに書き終えれましたが、

執筆途中で放置してるままの小説がまだまだあるものの中々執筆に繋がらない為、また更新が遅れるかもしれませんがご理解頂けるとありがたき幸せ。


またまた長文申し訳ない。


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