仲間に鎧を脱がない奴がいるので、脱がせてみた
連載小説を差し置いて、こんなものを書いてすみません。恋愛小説が最近書きたくて書きました。とても恋愛小説とは呼べないものですがね。へっへっへ。
俺様はクレイ。土魔法を使う、エリート魔法戦士だ。俺は冒険者で、とあるクランに所属している。
クランの名前は「エルドラド」とかいう大仰なもので、100人以上の大部隊になるが、それは今関係ない。
団長の名前は「ルクス」という、ありがちな勇者体質の男だ。聖剣を持ち、国にもギルドにも一目置かれた、英雄様である。俺はその英雄様が率いる大御所クランの、斬りこみ部隊にいる。
話はここからだ。
俺は斬りこみ部隊の副隊長をしているのだが、隊員の中にめちゃくちゃ強い暗黒騎士がいる。
真っ黒い鎧を着て、巨大な竜殺しの剣を背負った奴だ。
こいつは古参のメンバーで、勇者がクランを設立した時からいるという。俺は途中で入ったので知らないが、古参なのに俺よりも格下の地位にいる。めちゃくちゃ強くて設立メンバーなのに、肩書はない。副隊長の俺より格下だ。
奴は全身鎧を着ていて、頭にも鬼のような兜をかぶっている。魔物と戦う姿はまさにベルセルク。一人で突貫して魔物の首をいくつも持ってくる。
そんな鬼のような奴の名前は、「ルカ」と言った。今までは、俺がこいつに対して特に思うことはなかった。それが、とある事件でこいつに不信感を持つようになった。
それはクランでの大規模戦闘を終えて、王都に帰る時のことだ。
街道を馬に乗って歩いていたら、奴は突然馬を下りて、道の端っこに倒れていた子ぎつねを抱き上げた。見ると子ぎつねは怪我をしており、足から血が流れていた。もちろん殺して夕食のおかずに加えると思っていたのだが、奴は子ぎつねを助けた。狂戦士の奴が、動物を助けたのだ。
真っ黒い鎧を着たまま、ルカは子ぎつねの足に包帯を巻いていた。
「え? ルカが動物を助けた?」
俺も他のメンバーもびっくりしていた。勇者たちはその行動を見てニコニコと笑っていたが、俺は少し疑問に思った。もしかしてこいつ、優しい奴なのか?
そこからだった。このルカと言う暗黒騎士に興味を持ったのは。
俺は副隊長と言う立場を利用して、ことあるごとに奴に近づいた。ストーカーと言うと聞こえは悪いが、副隊長として隊員を管理する。そう言った名目で、奴を調査することにした。
まず、どんな時でも奴は全身鎧だ。
大規模戦闘が終わり、ギルドの酒場で打ち上げパーティーをしているときも、奴は全身鎧だ。どんな時でも戦に行けるようにと、奴なりの気遣いらしい。
話しかけてみると、兜の中からくぐもった声が聞こえてきた。
「私は、この鎧を脱ぐことを、許されて、いません。どうか、ご容赦を」
途切れ途切れで聞き取りづらいが、奴はそう言った。
深く問い詰めて嫌われたら面倒なので、「分かった」と言っておいた。
しばらく奴の近くで俺も飯を食っていた時のことだ。俺はルカをちらっと横目で見たら、とんでもないものを目撃した。
兜に飯を近づけると飯が消えたのだ。肉も、スープも、パンも、酒も。兜越しに、一瞬で飯が消えた。
「な、なんだと?」
どんな魔法を使ったんだと問い詰めたら、奴は言った。
「早食いです」
意味が分からなかった。
兜を取らずに飯が消えるわけがない。口の中に直接転移魔法で飯を送り込んでいるのだろうか? そうとしか思えないほどの早食いだ。
俺は、ルカと言う暗黒騎士を調査すれば調査するほど、疑念が湧いていった。
夜、トイレに起きた時だ。そこでもルカのおかしな行動を目撃した。
俺は宿で寝ていて、トイレに起きた。たまたまだが、ルカもトイレに起きたのか、向かいの部屋から出てきた。暗かったのか、ルカは俺に気付かず、そのままトイレに歩いていく。
「あいつ、マジか? ベッドで寝る時も鎧を着たまま寝るのかよ?」
奴は鎧を着たままトイレに向かっていった。俺は奴の後を付けると、鎧を着たままトイレに入っていった。トイレは狭いので、奴のデカい鎧ではつっかえる。どうやって用を足すのかと思ったが、奴は狭いトイレに無理やり体をねじ込むと、ギシギシ言いながら用を足していた。
ぜったいに引っ掛けるパターンだ。鎧の中に尿を引っ掛けたら最悪だぞ。どうしてそこまで鎧を脱がないんだ?
「変態なのか? なんであんな奴がうちのクランにいる? 設立メンバーなのに、俺より格下とはどういうわけだ?」
俺はものすごく気になったので、隊長に進言してルカの専属魔術師にしてもらった。ツーマンセルで動く時、奴の後ろを守る魔術師になる。それを隊長に進言したのだ。
「おい。俺の後ろは誰が守るんだ? お前がいなくなったら困るぞ」
「俺よりも適任のカイルがいます。奴も支援魔法を得意としています。少しは後輩に席を譲りませんと」
「そうか? 分かった。勇者様に言っておく。だけど、カイルが上手く動かなかったら、すぐにお前をもどすからな」
「分かりました」
俺は晴れて、ルカの専属魔術師になった。俺は奴の生態が気になって仕方ない。ここまで不思議な奴だとは思いもしなかった。そして、街道で助けた子ぎつねはルカのペットになっており、クランのマスコットになっていた。
★★★
とある夜。
ルカが風呂に入ることになった。
遠征で、一つの宿を貸し切った時のことだ。
今回は近くに銭湯もなく、風呂は宿にある浴場しかなかったので、そこで全員風呂に入ることになった。
男と女に分かれ、時間を決めて風呂に入る。戦闘で汚れた体を洗い流すし、温かい湯に浸かる。至福のひと時だ。
俺も隊長や勇者たちと一緒に風呂に入ったが、ルカは入ってこなかった。奴も戦闘で魔物の血を浴びている。いくら鎧でガードしていても、隙間から血が入り込むはずだ。なぜ風呂に入らないか、隣で体を洗っていた勇者に聞いてみた。
「あぁ。ルカね。あの子は特別だから。いいんだよあれで」
勇者は笑顔で言ってくれたが、特別の意味が分からない。やはり、ルカは特別扱いされているようだ。しかし、それで斬りこみ部隊のエースとはどういうことだ? 肩書もない。本来なら隊長格ではないのか?
ますます疑問が深まっていき、俺はついにルカへ直接聞いた。
「顔を見せてくれ。俺とはしばらくツーマンセルを組むことになったし、ルカの顔を見ておきたい」
至極当然のことを言ったつもりだったが、ルカはもじもじして、こう言った。
「断ります」
断られるとは思っていたが、俺は諦めない。
「どうしても見たい。もしもお前の顔に傷があっても、俺は気にしない! 絶対だ!」
俺は真剣な表情で頼み込んだ。内心はただの興味本位だが、もはや知ったことではない。ルカがどんな奴なのか知りたい。その一心だった。
俺はルカに頭を下げ続けたが、結局ダメだった。
ルカは案外頑固だった。
だが、俺は諦めない。天才魔法戦士、クレイ様だ。今まで俺が落とせなかった奴は、男だろうと女だろうと、一人もいない。必ず俺の手中に収めてきた。
単純な手だが、俺はルカに好かれるために、行動に移した。
俺は、ルカにプレゼント攻撃をした。
まずはルカが好きな魔物肉。竜肉だ。奴は肉を好んで食べていたので、竜肉の燻製をしこたまプレゼントした。すると、ルカはもじもじと鎧をこすり合わせ、「ありがとうございます」と言っていた。当然、渡した肉は、ルカの特技「早食い」で一瞬に消えた。
「火炎竜の肉も手に入ったんだ。明日持ってくるよ。 ルカ、火炎竜好きだったろ?」
「う、うん」
ルカはガシャガシャと鎧をこすり合わせた。太ももの鎧をこすり合わせてモジモジしている。
顔が見えず、真っ黒い鎧でモジモジされると対応に困るが、俺は気にするなと言った。
それからは、ルカが気に入りそうな武器やアクセサリーをプレゼントしまくる。これにより、少しずつ奴の心を開いていくのだ。しばらくすれば、奴も俺に対して敬語は使わなくなっていた。
「ルカ。今日は大好きな竜肉のスープだぞ! 俺の手作りだ!」
「本当か。毎日ありがとう、クレイ」
俺はルカを甘やかしまくった。
他のメンバーからは気味悪がられたが、勇者や賢者、設立メンバーだけには笑顔で見られていた。
そして、時は突然やってきた。
俺は皆とは時間を遅くして、一人で風呂に入ってきた時だ。たまたま一人で風呂に入っていたのだが、その時は急にやってきた。
なんと、ルカが風呂に入ってきた! 俺が入っているとは気づかず、風呂にきたようだった。
もちろん。その時のことは一瞬たりとも忘れていない。俺は、ルカの裸体をマジマジとみた。
ルカは、全身、真っ黒い鎧を着たまま、風呂に入ってきた。
「…………」
さすがの俺も我慢できずに、こう言った。
「ルカ。風呂に入るときくらい、鎧を脱げ」
ルカは俺がいたことに気付かず、悲鳴にならない悲鳴を上げた。
なんだなんだと他のメンバーたちが風呂場に集合する。そこで見つける、全身鎧のルカ。風呂場にタオルを持って入る、全身鎧のルカである。
ルカは兜を手で隠して、泣いて走って消えた。
「え……。俺、何かしたか?」
勇者に後でこってりと叱られ、最後に言った言葉が衝撃だった。
「彼女は、デュラハンだ」
「え?」
「鎧を脱げないんだよ。魔物だから」
「魔物がうちのクランに?」
「あの鎧は、聖鎧ジークムントだ。何の因果か不明だが、あの鎧は魔物化して、俺と一緒にいるんだよ」
「じゃぁ、ルカはアンデッドなんですか?」
「それも分からん。ただ、きちんと意思があり、食べ物も食べる、へんな鎧ってことは確かだ」
「…………」
衝撃的だった。クランに、魔物がいたのだ。しかも仲間として。パートナーとして。
「あの子は女の子だ。多分」
「多分?」
「可愛いものが好きだし、男の裸を見ると恥ずかしがって逃げていく」
真っ黒い鎧がそんなことをしても、誰も女の子だと思わんぞ。良く気付いたな勇者。
「お前はルカと仲が良かっただろう? 謝って、許してもらえ。きっと許しくてくれる」
「それはいいんですが、このままルカをずっとメンバーに入れておくんですか?」
「そうだ。いつかあの鎧を着れる人間が現れるまで、ずっとだ」
ルカを着れる人間?
「きっと、あの鎧を装備できれば、ルカは浄化されて天国へ旅立てるだろう」
なんの根拠があって言っているんだ。お前は神か?
「頼んだぞ、クレイ。お前しかいない」
勇者にポンと肩を叩かれる。意味不明だ。なんで俺しかいないのだ。
「さぁいけ! クレイ! 謝ってこい!」
俺は勇者に叩き出され、ルカを探した。探すと、すぐに見つかった。宿の近くにあった池にいた。鯉にパンくずを与えている暗黒騎士がいた。しゃがみこんでパンくずを与えている。鯉はパクパクとパンを食べている。
「ルカ。さっきは悪かった。ゆるしくてくれ」
「…………聞いたのか?」
「え?」
「勇者から、私がデュラハンだと、聞いたのか?」
「ああ」
「私が、怖くないのか?」
「怖くないな。もう、今さらだ。俺とお前の仲だろう? ルカがデュラハンでも怖くないさ」
「そ、そうか」
ルカはパンくずを鯉にすべて与えると、スクッと立ち上がった。ルカからは、黒い魔力が立ち上っている。闇の魔力だろうか? さすがに、そのまま俺の近くに来るのだけは止めてもらいたい。闇の魔力は人間にとってあまりよろしくない。
「クレイ。私を見てくれ」
そう言って、ルカは兜を取った。そこには、何もなかった。空っぽだった。
「私が鎧を脱ぐときは、死ぬ時だ。兜一つだけでは死なないが、すべての鎧を脱げば、死ぬ。そんな私でも、一緒にいてくれるのか?」
ルカに告白される。俺は分かったと言おうとしたが、もしかすると、これはプロポーズかなにかか? 変な契約でもされたらまずいんじゃないか? 相手は暗黒騎士デュラハンだぞ。
俺は一瞬悩んだが、ルカに手を差し出して、こう言った。
「大丈夫だ。一緒にいるよ」
ルカは俺に走り寄り、抱きしめた。俺は、硬い鎧に潰される。抱きしめられるが、圧死寸前だ。
「ありがとう! ありがとう!」
ルカの真っ黒い鎧は突然光り輝き、真っ白になっていく。俺はルカに潰されつつ、その幻想的な光景を見ている。もはや息も絶え絶えだが、ルカの浄化が始まってしまったのかとびっくりした。
「まずいぞルカ! お前の鎧白くなってる! お前、死なないだろうな! おい!」
「あぁ、あたたかい。ありがとうクレイ。聖鎧ジークムントの呪いが、解放される。ありがとうクレイ」
俺は力が無くなったルカに押しつぶされ、気絶した。
★★★
朝、宿で起きてみると、壁にかかった白い鎧が目に入った。ルカだった。彼女は壁に立てかけられるようにして、鎮座している。もはや、ルカの声は聞こえない。
「クレイ。昨日は大変だったな」
「あ、勇者様。すみません。大ごとになってしまって。それに、ルカも」
「そうか。そうだな。だが、気にするな。ルカは、あぁなることが幸せだったんだ」
勇者は遠い目をしている。
「クレイ。君を俺の直属のパーティーに加える。聖騎士クレイとして、聖鎧を着て戦ってくれ」
「え?」
「君はルカに選ばれた。だから、俺の聖剣とともに、一緒に戦ってくれ」
俺は、どうやら勇者になってしまったようだ。聖鎧の勇者に、なってしまったようだ。
「そうですか。分かりました。ともに、魔王を倒しましょう」
「ありがとう。クレイ。ルカの為にも、頑張ろう」
俺は鎮座しているルカを見ると、「楽しかったよ、ルカ」と言った。
★★★
俺はその後、聖鎧ジークムントを装備できる聖騎士になり、聖剣の鎧として戦うことになった。魔王討伐の、勇者メンバーの一人になったのだ。
一気に成り上がってしまい、俺も民から信頼される勇者になった。
邪悪な魔物も討伐して、クランの仲間とともに戦場を駆け巡る。
ルカの鎧を着て、戦い続ける。そして俺たちは魔王を討伐して世界に平和を取り戻す!
という感じで終われば、良いおとぎ話で済んだが、そうは問屋が卸さない。
鎧が白く輝いたあの日、ルカは呪いから解放され、死んだかに思えた。だが、死んでいなかった。
ルカは、どうやってか光の中から人間の姿で現れた。聖女様として現れた。俺を愛してくれる聖女様として、顕現したのだ。
光の魔法を使いこなすルカは、まさに最強の治癒魔法使い。彼女は俺に「好き好き。大好きクレイ」と言って、常にまとわりついてきた。朝も昼も夜も、ずっとだ。
メンバーにはラブラブしているところをずっと見られるし、戦闘でも俺にばかり治癒魔法を使う。
ルカが死なずに聖女様として蘇ったことはうれしいが、俺の本当の戦いはこれからのようだ。
最近、王様の姫やら、勇者の妹やらにも好かれて、ルカが嫉妬している。また暗黒騎士に戻られても困るので、俺は毎日、ルカに竜肉のスープを作り続けるのだった。
おしまい。