アルマティ学園の新人剣士《イニシエイト》
反響次第では、長編にしたいと思います。
文章表現や知識量がまだまだの未熟者です。
「新入生のみなさん。ようこそ、アルマティ学園へ」
ホールに集まる聴衆約3000人の視線は、ステージ上の『女帝』へと向けられていた。
引き締まったスタイルに、キリッとした風貌には大人の色気も忘れさせないクールビューティ。
まさに『女帝』と呼ぶにふさわしい彼女は、アルマティ学園のトップ・ジゼル学園長。
生徒約3000人の頂点に立ち、また、戦士約3000人の頂点に立つ女。
「これから始まる新生活。それは、とても過酷なものとなるでしょう。しかし、忘れてはいけないのは、あなたたちは『選ばれし戦士だということ』。ここに集まりしみなさんは、将来を帝国軍兵士として約束され、帝国のためにその命を捧げることのできる、名誉ある者たちなのです。」
彼女の口から告げられる一言一言には重みがあり、講堂には、重苦しいな雰囲気が漂っていた。
彼女は満足したのか、咳払いを1つすると、
「えーっと、とにかく新入生のみなさんは、アルマティ帝国の戦士候補として誇りを持ち、充実した学園生活を送ってください。私からは以上です」
終始おも〜い空気が漂っていた入学式が閉式し、生徒が講堂から、各々の教室へと移動し始めていた。
そんな中。
まだ講堂に残っていた黒髪の少年は、自分も教室に行こう。と席を立とうとしたその時、異様な気配に気づく。
2階席の最前列に座る彼の隣には、呪術でもかけられたかのように途轍もない負のオーラを放つロリ少女が座っていた。
クラウドは恐る恐る、紫色のローブを身に纏う少女の顔を覗くと……。
めちゃくちゃ可愛い顔立ちをしていた。
美人という感じではなく、愛らしい小動物のような容姿の彼女に、クラウドは、
話してみたい。
そう思った。
欲求に堪えきれなくなったクラウドは、衝動に任せて話しかけることにした。
「えーっと、大丈夫ですか?そんなに身体をこわばらせなくても……。もう式は終わりましたよ?」
少女はいきなり話しかけられたことに驚いたのか、「ビクンッ!」と身体を大きく震わせる。
お互い見つめ合う時間が続く。
少女は、顔を真っ赤に染めて、澄んだ碧眼には涙が溜まっている。
一方クラウドはというと、滅茶苦茶に焦っていた。
「す、すみません!驚きますよね。私、物事を考え始めると、オーラが出る癖があって……。今も、学園長の言葉を聞いて、自分は生き残れるんだろうかって心配になっちゃって……。あ、ありがとうございました!」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女の天使のような声に、クラウドは目の前の状況を再認識する。
「いいい、いえいえ!ここ、困ったときはお互い様ですよ!ち、ちなみに俺はクラウドって言いますっ!」
さっきとはまるで違うチキンな自分に戻っていたクラウドは、かみかみで啖呵を切った。
そんな彼に、少女は「クスッ」と笑う。
これも私の緊張をほぐすための演技だろう。と壮絶な勘違いをする彼女だったが、緊張がほぐれた様子で、
「こちらこそ、優しい方に出会えてホッとしました。私のほうは『アルメリア』と言います。実家は鍛冶屋を営んでいて、武器とかには多少詳しいですが、あまり実技が得意ではなくて……。」
自分と同じだ。とクラウドは親近感を感じた。
技術力を知識力でカバーする彼女のようなタイプはクラウドを含めて、『インテリ』と俗に言われ、技術派の『テクニカ』と対比されることが多い。
そのため、入学審査の際、クラウドのような『インテリ』は、筆記試験で点を稼がなくてはいけない。
ちなみにクラウドは、実技試験がボロボロだった分、筆記試験を学年3位で突破し、合格ラインにギリギリ届いたという典型的なパターンである。
なので、彼にはアルメリアの気持ちが痛いほどに理解できた。
「ち、ちち、ちなみに、アルメリアさんはどちらの科ですか?」
彼女はローブを着ていたのにも関わらず、当たり前のことを聞いてしまったチキンだったが、彼女は快く答えてくれた。
「魔術科です。本当は剣術科志望でしたが、全く才能がなかったのと、この体型がネックで……」
「まあロリだもんな」と、内心クラウドは思ってしまった。
やはり、体型的な問題というのは、特に女性の場合大きいのだろう。
帝国軍にも女剣士はいるし、「剣姫ヴァルキリア」「聖女ジャンヌダルク三世」などが歴史的に有名なのだが、やはり主流は男の剣士である。
そのため、女性が戦士になる場合、大半がメイジやウィッチを目指す。というのはこの世界の一般常識となっていた。
ちなみに剣術科のクラウドは、スペル詠唱が苦手で魔術科を断念したのが一年前の春。
10ヶ月必死に練習しても、発火系の最弱魔術が2つが限界という有様だったクラウドは、致し方なく剣術科へと入学をしたのだ。
「俺なんて、発火魔術2つが限界ですよ。アルメリアさんは、どんな魔術を使うんですか?」
「心理魔術です。相手の心理状態をコントロールしたりできますよ」
しかし、実際に使えるのは心理療法ぐらいらしい。
天使のような彼女には、ぴったりな癒し系魔術だった。
「試しにやってみますか?先ほどのお礼です」
それじゃあ背中を向けてください。とクラウドを後ろに向かせる。
「シリウス・ユーリ・メスタチア………」
スペルを詠唱する彼女の長髪が、魔力によって微かに揺れる。
魔法陣がクラウドの背中に現れ、彼女の指がなぞるように触れる。
「うっ……」
「そのままじっとしていてください」
徐々に体が楽になってきた気がするが、艶かしい指の感触のせいで、正直それどころでは無かった。
「えーっと、アルメリアさん?ちょっとくすぐったいのですが……」
「……………」
魔術に集中しているのか、後ろから返事は返ってこない。
それから5分弱。
「ふ〜、終わりました〜。お身体の調子はどうですか?軽くなりましたか?」
5分の間、あらゆる場所を指でなぞられたクラウドは、逆に疲れ切っていた。
この人は危ない!
もはや心理療法というより性魔術だろ。とクラウドは思ったが、
「いや〜、楽になりました。流石ですね〜。また今度お願いできますか?」
上目遣いで、心配そうに目を潤ませる彼女に対して、性魔術だとか何だとかと言えるわけがなかった。
可愛さは正義だ。byクラウド
「本当ですかっ!疲れた時はいつでも言ってくださいね」
きっと魔術云々よりも、彼女の愛らしさがリラックス効果を生み出しているのだろう。
そんなことを思った丁度その時。
「ピンポンパンポーン。クラス集合10分前です。直ちに教室へ移動してください」
「わあ、こんな時間!今日は本当にありがとうございました。お互い新入生同士頑張りましょうね」
彼女は慌ててイスから立ち上がると、「それでは」と笑顔で去っていった。
それから、ホールの出口に向かう彼女の後ろ姿を見ていたクラウドは、あることに気づく。
「ん?金髪?」
彼女の腰まで延びる髪の色は銀である。だが、腰のあたりだけ、数センチほど金髪なのだ。
「まるで俺みたいだな」
実は、黒髪のクラウドにも、後ろ髪の一部に金髪が混じっている。
地元の果物屋いわく、珍しい髪質らしいが、未だハッキリと正体がわかっていなかったのだ。
「今度聞いてみようかな」
会う理由が増えたことにちょっとした幸せを感じながら。
「よし!教室に向かうか」
ホールの出口へと、スキップを弾ませた。
翌日。
教室棟三階の1年B組。
教室は、右も左も故郷の思い出などをネタに談笑する生徒で溢れかえっていた。
帝国行政区出身の者。実家が農家の長男坊もいれば、親は帝国騎士というエリートもいる。
そんな多種多様な身分層が混在するのも、強い者だけが生き残れる「実力者主義」の表れだ
そして、いかにも実力者主義に埋もれそうな男がここにいた。
「なあクラウド、だったか?何時から新入生トーナメントが始まるんだっけ?」
「ああ、午後の1時半からだろ。俺はどうせ最弱のレッテルを貼られるんだろうよ……」
「まあまあ、そんなナーバスになるなって。まだ入学してすぐだぜ、もっとラフに行こうぜ」
「ラフになれるわけないだろ!だって、このトーナメントが今後の評価にも繋がるんだぞ!この俺が生き残れるかは今日にかかってんだよ!」
勢いよく机から乗り出して捲したてるクラウドに対し、話し相手の少年はまあまあと制止し、話を続ける。
「まあ、農家の出である俺から言わせてもらうと、お前の出身が帝国随一の商業都市「ブランタン」出身ってのも羨ましいって思うぜ」
「ブランタンはブランタンでも本当に端っこのほうだよ。郊外と全く変わんないさ」
商業都市ブランタン。帝国の中心部に位置する大都市で、武具の中央卸売市場が多く点在する、いかにも商業の街だ。
「ナリアこそ、農家って言ったて、親が大農場主だろ。あそこの地価は高いって聞いたぞ」
「まあ軽く一億イヴはするな。何たって『帝国の食糧庫』って言われるアダム平野だからなあ」
「何で農場を継がなかったんだ?そっちの方が安定した収入を得られそうじゃないか」
男は剣士になれ。という格言はあるが、クラウドに言わせてみれば、別に他の職で生活が安定すれば、それはそれでいい気がする。
「そりゃあ、男の血が騒いだってやつだぜ!」
「へー」
人の数だけ、人生があるってことだろう。
クラウドには理解できない理由だったが。
「おっ、そろそろ始まるぜ。トーナメントが」
時計の針は午後の1時を指している。
「よし!俺なりに頑張るぞー!」
今まさに、彼の波乱な学園生活は、幕を開けようとしていた。
初めての執筆です。
アドバイス等をいただけたら嬉しいです。