激闘天界大決戦!悪魔セドリック編
俺はセドリック。
ヴァン神族のいわゆる悪魔、神の敵。
俺たちヴァン神族の目的はにっくきオーディーンから天界を奪取し、現世であるところのミッドガルを支配することだ。
現在、そのための戦争の最中。
前線ではフェンリルがフレイヤと、ヨルムンガルドがトールと、リーダーのロキは神の長であるオーディーンと、熾烈な戦いを繰り広げている。
俺も急いで前線に繰り出し、ヴァルキリーや配下の英霊を打ち倒して、勝利に貢献しよう!
と、言いたいところだが……。
天界の戦争はミッドガルの戦争と大きく違う点がある。
それは、魔法と神具の存在。
ロキは魔法で闇を自在にことができるし、魔物を召喚することもできる。
オーディーンは投げると狙った獲物に必ず命中するグングニルを所有しており、トールも雷を呼び出すハンマーを持っている。
英霊たちは魔法こそ使えない人間であるものの、ミッドガルで名を馳せた者たちなので、武器の扱いに長け、非常に戦闘力は高い。
それに対抗するために我々ヴァン神族も、魔法を発展・普及させ、末端の兵卒でも火球を出して攻撃したり、地面から氷の棘を生やすなどの力を持っている。
しかし魔法には適正があり、自分がどのような魔法を使えるかは完全にランダム。
自分に向いている魔法を、ロキが見極めて、発現させる。
俺が使える魔法は、『相手にひょっとこのマスクをつける魔法』のみだ。
まったく戦闘に活かせる能力ではない。
なぜロキは俺をこの戦場に連れてきたのか。
趣味はミッドガルのアニメ鑑賞とゲームで、戦闘も弱い。
対する相手の英霊たちは、行く度の戦闘を経ても一度も血を流したことのない武将や、戦争で百人切りを成し遂げた剣士、どんなに遠くからでも的確に相手の頭部を撃ちぬく弓使い、
とても敵う相手ではない。
そういうわけで、戦場には来たが、なるべく敵が居ないであろう場所をうろうろしているところだ。
周囲は木に囲まれており、仲間達からも俺が隠れているのはバレないであろう。
正直、どっちが勝ってもいいので、早く戦闘が終わってほしい。
英霊やヴァルキリーと遭遇したら、自分の命が危ない。
そんなことを考えていると、背後からガシャガシャという音。
ヴァン神族は魔法メインで戦うため、相手とは少し距離をとらなければいけないので、軽装だ。
つまり、この音は、敵軍。
やば、英霊!
俺は後ろを振り返ることなく、全速力で前ヘと逃げだした。
背後の敵も追いかけてきたが、装備の重量の差か、なんとか逃げ切ることができた。
しかし、恐怖から無我夢中で走っていたので、森を抜け、見晴らしのいい平原の高台に来てしまった。
ここは危険だ。
俺は身を隠す場所を探すが、いま抜けてきた森の他にはそのような場所はなかった。
しかし妙だな……。
なぜこんな平原なのに誰も戦っていないんだ? 普通の戦場であれば平原が一番の激戦区となるはず……。
俺はあたりを見渡す。
平原が広がっているだけ。
いや、しかし、おかしいな。
ここだけ妙に空が暗い……
ドゴォン!
突然の轟音。上からだ!
俺は天を見上げる。
そこには、空中で真黒な雲から真黒の雷をオーディーンに向けて発射するロキと、それをグングニルで払うオーディーンが居た。
やべぇ所に来てしまった。
よりにもよってこんなガチ最終決戦の舞台に来てしまうなんて。
まださっきの英霊と戦った方が生きる確率が高いだろう。
俺は森へ引き返そうとする。
振り返ろうとした瞬間だった、動くものを察知したオーディーンと、目が合ってしまった。
オーディーンはすかさずグングニルを構える。
その槍は、狙ったものを必ず貫く。
死んだ。
俺はそう確信した。
世界がスローになる。
走馬灯だろうか。
意識がはっきりとしてくる。
死にたくない。
まだ死にたくない。
俺はまだ彼女もできたことないし、
童貞だし、
ミッドガルの秋葉原とかいうところ行ってみたいし、
積みゲーも山ほどある。
シリーズもののラノベの続きも読みたい。
頭の中を様々な思いが駆け巡り、
気付いたら俺はオーディーンに向かって魔法を唱えていた。
オーディーンの顔にひょっとこの面が装着される。
突然のことにオーディーンはひるむ。
その刹那、ロキの剣が奴の体に突き刺さった。
オーディーンが空中からそのまま落下する。
もはや力は残っていない。
勝敗は決した。
天空にいるロキがこちらを見た。
「いい仕事するじゃん、セドリック」
ロキはにんまりと笑った。